ミュージカル全盛のロンドンから古典劇が消滅しつつある?

The Guardian 2023年3月23日 Michael Billingtonの記事より

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近年、ビル・ナイの主演版がNTライブで上映された「スカイライト」、燐光群によって日本語/人で上演された「パーマネント・ウェイ」などで日本の演劇ファンにも馴染みのある英国の劇作家デヴィッド・ヘアがウェストエンドではミュージカルがストレートプレイの発展を妨げているのでは?と発言し物議を醸している。

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彼の主張に共感する部分もある一方で、過去20年間商業演劇の分野でミュージカル演目が25作品以下になったことはなく、その意味ではヘアの言うことがその間に起きていたとしてもおかしくはなく、ヘアが提言したのがこのタイミングだというところが気になるところだ。ロンドンにある従来はストレートプレイを主に上演してきたロンドンの3つの劇場が非常に良い出来のミュージカルを上演していて、おそらくヘアはウィンダム劇場でミュージカル「オクラホマ」がかかっていることに注目してこのタイミングで前述のような発言をしたのではないだろうか。「オクラホマ」の演出家ダニエル・フィッシュは古典演劇の演出家たちが長年やってきたことをすっかりそのままミュージカルでやってのけた。彼はテキストにほとんど手を加えることなく、このよく知られている戯曲に新たな見方を示してくれたのだ。よくあるアメリカの田舎町に対する熱烈な讃歌の代わりに、狭い自己愛に満ちたコミュニティによるよそ者に対する迫害という暗くて不穏な教訓を示してくれた。

もう一方で、ブリッジシアターで上演されたニコラス・ハイトナー演出の「ガイズアンドドールズ」では同じように通常演劇のために使われる空間のミュージカル移植が成されていた。そこではハイトナーのイマーシブ(没入感のある)な舞台づくりが作家Damon Runyonのカラフルな寓話を休むことない都市の万華鏡のような世界へと作り上げていた。Bunny Christieの美術はFrank Loesserのウィットに富んだ歌詞とAbe Burrowのテキストにマッチしていて、例えば永久に婚約中のミス・アデレイドが彼女の婚約者を捨てるかどうかの決断を迫られているシーンでは通りのネオンサインが“進め”と“止まれ”を交互に点灯させるという趣向を取っていた。プレイハウスで上演されたレベッカ・フレックノールの「キャバレー」には多少の疑問があるものの—と言うのも、エムシーがWilkommen!を歌う愛嬌あふれるホストから徐々にナチのグロテスクなシンボルへと変貌していく点を見逃しているから—この古典戯曲に心躍る新たなオリジナルの解釈を付け加えている。ヘアの見解に同意する点としては私も彼同様に新作に飢えているというところだろう。しかしながら演劇の将来が全く期待できないということではないと私は考えている。Jack Thorne, James Graham, Deborah Bruceなどの戯曲がナショナルシアターで幕を開ける。Peter Morganの傑作、ロシアの新興財閥オリガークの衰退とウラジミール・プーチンの台頭を描いた「Patriots」はアルメイダ劇場からウェストエンドに場所を移しての上演が決まっている。そしてハロルド・ピンター劇場での「A Little Life」(Hanya Yanagiharaのベストセラー小説が原作でIvo Van Hoveが演出を担当)の開幕も楽しみだし(現在上演中)、ドンマーウェアーハウス劇場でのJack Thorne新作戯曲、キルン劇場のRyan Calais Cameron作品、ジャーミンストリート劇場のTimberlake Wertenbaker作品の上演、、、とロンドンだけでも開幕が楽しみな演劇作品が目白押しだ。

実際、英国演劇の生態系という点で私が真に心配しているのはロンドンでも地方でもいわゆる古典と言われる芝居が事実として消えつつあるという点だ。1966年9月の演劇雑誌を見ると、オールドヴィック劇場ではシェイクスピア、コングリーブ、ピネロ、オケーシーらの英国人作家の芝居が、オールドウィッチ劇場ではデュレンマット、デュラス、ムロージェクなどのヨーロピアン作家の芝居が、ロイヤルコート劇場ではアルフレッド・ジャリの「ユビュ王」が、そしてジョージ・バーナード・ショーやオスカー・ワイルドの芝居がウェストエンドでかかっていた。今日ではそのラインナップはとてつもない宝のように映る。デヴィッド・ヘアはミュージカルの席巻を憂いているが、私としては過去の至宝やヨーロッパの現代劇の優れた作品から切り離されている劇場というのがもっと気に掛かかるところだ。

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