庭劇団ペニノの「埋火(うずみび)」は見えないものを見せる演劇

2026年3月27日香港アーツフェスティバル「No Limits」で世界初演、その後ウィーン、アテネで大絶賛され5つ星旋風を巻き起こした庭劇団ペニノの8年ぶりの新作「埋火(英題:Sleeping Fires)」がついに神奈川芸術劇場(KAAT)で凱旋公演を果たす。

天保11年(1840年)、山間にある民家に暮らす盲目の按摩師と彼女を訪れる人々の間に隠されていた記憶と欲望がある一夜を境に露呈していく。視覚障害のある俳優2名(かわいいねこ、関場理生)を迎え入れ、「見ること/見えないこと」を越えた人間の感覚、暴力、自由、そして善悪の揺らぎを描いた作品となっている。

(c) No Limits and photographer Patrick Wai

香港公演舞台写真

今年6月にギリシャの「アテネ・エピダウロス・フェスティバル」参加作品として2日間上演された今作は現地メディアでストーリー、「埋火」の意味、そして作品設定の背景に至るまで詳しく紹介され「これまで観た中で最も重要な舞台成果」と高く評価された上に最高評価の五つ星を獲得した。

舞台上演にさきがけて行われたアテネ現地入り直後のインタビューで作・演出のタニノクロウは

「この作品は確かに「インクルージョン」「フェミニズム」、「平等」といった現代的な課題と深く共鳴しています。しかし。。。(略)私が当初探求したかったのは盲目の女性が世界をどのように体験しているかということでした。彼女たちは他者とどのように関係を築くのか、 人間社会の中で、どのように生き抜いているのか。。。彼女たちは確かに傷ついているが、同時に強く、危険で、自由でもある。その意味でこの作品は確かにフェミニスト的なものと見なせるかもしれない。一方で私は、女性から怒りや復讐心、あるいは欲望そのものを奪わないことが重要だと考えています。彼女たちの複雑さはそのまま保たれるべきなのです。

「社会は常に人々を分類しようとします。しかし、そうした分類の枠の中には矛盾に満ち、曖昧で、豊かな個々の人生が存在しています。私は、演劇こそが、こうした固定観念的な分類の枠から外れたあらゆるものが再び可視化される場であると信じています。私にとって、平等とはすべての人をまったく同じように扱うことではありません。それは、異なる身体、異なる傷、異なる記憶を持つ人々が、同じ時間と空間の中で共存できるようにすることです。」と通常、弱者として扱われる視覚障害者の真の姿についての持論を語っている。

また、同インタビューでタニノ作品に通じている感覚的な知覚について尋ねられ、こう答えている。

「私の作品はかねてより視覚を超えた感覚を主題としてきました。。。失明は、世界の不在を意味するものではありません。音、香り、温度、触覚、空気の動き、そして他者の息遣いが、別の世界を誕生させるのです。。。時に、目に見えず、触れられず、あるいは言葉に表しにくいものの中にこそ、人間の存在に関するより深い真実が秘められていることがあります。私は、演劇こそが、そのような真実に迫ることができる数少ない芸術形態の一つであると信じています。


「埋火とは、灰の下に埋もれた炭火のことです。外から見れば、消えたように見えますが、しかし灰の下には熱が残っています。ひと息吹きかけるだけで、炎は再び燃え上がるのです。私はこのイメージに、常に深く惹かれてきました。。。魂の中の火、それは肉体的なものであり、流動的で、不純で、本能的なものなのです。痛み、恥、怒り、優しさ、復讐、欲望――これらが灰の下で眠っているのです。『埋火:Sleeping Fires』は、眠っているが死んではいないもの、目には見えないが紛れもなく存在するもの、静かに見えるが、いつの日か再び炎を噴き上げるかもしれないものを指しています。」

(c) No Limits and photographer Patrick Wai

香港公演舞台写真

作家・演出家タニノが観客へ宛てた作品手引きから:

「彼女は目が見えないにもかかわらず、世界の輪郭をたどっていました。彼女は光を音に置き換え、メロディーに耳を傾け、香りの痕跡を頼りに進み、肌の感触を通じて真実を読み取っていたのです。」

灰の下で静かにくすぶり続ける火種がゆっくりと火を灯す時、何が現れるのか。観客一人一人の胸の奥に埋もれていた何かが息を吹きかえすだろう。この秋、そんな演劇ならではの体験が待っている横浜のKAATを訪れてみてはいかがだろうか。

(c) No Limits and photographer Patrick Wai

香港公演舞台写真

「埋火(うずみび)」

会場:KAAT神奈川芸術劇場 大ホール

日程:2026年11月12日(木)〜15日(日)

チケット:1,000円(高校生以下)〜5,500円 (障害者割引4,500円あり)

詳細:https://www.kaat.jp/ 、http://niwagekidan.org/