今、海外の演劇マーケットで快進撃を続けている「2ショルダーパッズ」*をご存知だろうか。
宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をベースとした50分間の芝居「ショルダーパッズ・ギャラクシートレイン(銀河鉄道の夜)」は2025年8月に世界最大の芸術祭であるエディンバラ・フェスティバル・フリンジで全21ステージを完売。さらに4,000近い参加作品の中から名誉ある「Mervyn Stutter’s Spirit of the Fringe Award 」「Asian Art Awards」を受賞するという日本演劇界を震撼させる快挙を成し遂げた。
2000年、関西大学在学中に菜月チョビ(演出)と丸尾丸一郎(作・演出)が立ち上げた「劇団鹿殺し」。当初は劇団員の鍛錬の一環という目的で始めたという肩パッドのみを身につけてのパフォーマンスが「ショルダーパッズ」だ。劇団鹿殺しではコロナ禍明けの2020年にコロナ後最初の公演として「銀河鉄道の夜」をショルダーパッズスタイルで上演し(2本建公演で江戸川乱歩の「少年探偵団」と上演)、大きな反響を得た。
今回、jstages.comは初参加となった2025年のエディンバラ・フリンジでいきなり全公演完売を記録した「2ショルダーパッド・ギャラクシートレイン」を上演することにした経緯、また現地で何が起きていたのか、さらにその快挙によって今何が起きているのか、劇団座長で演出家、俳優である菜月チョビに聞いた。
*2020年には「ザ・ショルダーパッズ(The Shoulder Pads)」と名乗っていたが、2025年エディンバラ・フリンジでは「1ショルダーパッド(1Shoulder Pad)」名で参加、その後2026年5月のブライトンフェスティバルから「2ショルダーパッズ(2Shoulderpads)」としている。

菜月チョビ
まずは英国の2大フリンジフェスティバル(エディンバラとブライトン)での大成功おめでとうございます。
事前にエディンバラ・フリンジで大活躍した先輩「が〜まるちょば」*のケッチさんなど色々な先輩にアドバイスをいただきました。結果を報告したら「1年目でこの成果は信じられないくらい凄いことだよ」と言ってくださり、実感が湧いてびっくりしました。ですが、日本でそのことを話してもなかなかその実がわかってもらえないのが実情です。

現地メディアで多くの星を獲得。賞にも輝いている。
日本からの初参加で初日から完売というのは奇跡に近いのではないでしょうか。
劇場が決まったのがフェスティバル開幕ギリギリだったのでその意味で宣伝が遅れ、最小限のポスター貼りしかできなかったので現地に入って“初日が売り切れた”と聞いてこちらがびっくりしたぐらいです。その時点で3日目ぐらいまで完売になっていて、その後はお昼には夜の公演のチケットが売り切れているという状況が連日続きました。なぜだろうと思いお客さんに聞いたら、フリンジのサイトをチェックしていて、掲載されているビジュアルイメージと説明文で“これは面白そう”と思ってチケットを購入したと話していました。フリンジ常連さんたちは面白いものを嗅ぎ分ける力があるのでしょうか。海外の作品のチラシやイメージはどちらかと言えば抽象的でアーティスティックなものが多かったのですが初参加の1年目でしたし、実際自腹を切っている部分もあり、下手したら劇団が無くなるぐらいの覚悟で敢行したので少しぐらいダサくても何をしているのかがはっきりとわかるチラシ、つまり我々はこの格好(ショルダーパッドのみの衣装)でやりますよというのがわかるようにしようということで作った宣伝物が結果として良かったみたいです。

大勢の見物者たちに囲まれた街頭宣伝パフォーマンス
*1999年に結成されたヒロポンとケッチ!によるパントマイムデュオ。2004年、2005年とエディンバラでフリンジ関連の賞を受賞。続いて2006年と2007年にはブライトンフェスティバルで賞を受賞している。2019年4月以降はヒロポンのみで活動を続けている。
ショルダーパッズの原型は15年ぐらい前にあったというのを雑誌で読んだのですが。
劇団を立ち上げてしばらく関西で活動していたのですが、その時期に公園でテントを張って公演をしている唐十郎さんをお見かけしてその人間力に圧倒されました。その公演をいかにもインテリっぽい若い人から普通のおじいさんまで幅広い層の人が観に来ていて、こんな老若男女からカッコいいと思われている唐さんはすごいなと思い、私たちもその“人間力”を鍛えようと思って路上パフォーマンスを始めました。例えばバンドマンと私たちが並んだ時にそのバンドマンよりも自分たちの方がカッコいいと言われたい、そう言わせる何かが欲しい、と。そこからライブハウスでも劇を上演するようになったのですが、ギター一本で来ている彼らの横で小道具なり衣装なりを揃えている我々はカッコ悪いなと思えてきたんです。それでギター一本で世界を変えるように、演劇は身体一つで世界を変えられる凄さがあるということを思い、裸ひとつで他には何も持たない演目をバンド演奏の合間の短い時間にやるようになりました。ショルダーパッズのみの格好でのっけに笑わせてからその後はきちんと鍛えた身体表現を見せてバンドを見にきた人たちの気持ちを捕まえ、劇場に呼び込むという目的で始めたのがショルダーパッズです。その後、劇場でもやると、路上から興味を持って観に来てくれる人が多くなり、それで演劇を好きになってくれる人も増えました。その時にショルダーパッズはパワーがあることを実感しました。
エディンバラでは本編の前に「コロナ禍で劇団を継続するのが難しいとなった時に衣装を買うお金がなくて、この作品を考えつきました」という語りから始めました。実際、コロナ明けの公演一発目として演劇の凄さがわかるこの作品を上演しましたし、コロナでいつまた上演が出来なくなるかわからない状況だったので、最小限でお金をかけないモノをやろうということでした。ショルダーパッズの誕生時には人間力を磨くという目的でやったのですが、エディンバラへの挑戦時にはコロナがあけて演劇を続ける理由というか、心細いが故に演劇をやっているのだという人が世界の片隅(日本)に存在していることを見て欲しいという思いがあり、今作を持っていこうと決めました。
昨今の物価高の中、エディンバラフリンジへフルタイム参加(フェステイバル会期中最後から最後まで)を決めたのは以前から海外進出に興味があったからですか。
私が2013年に文化庁の新進芸術家海外研修制度で1年間カナダに留学をさせてもらったというのが一つ。あと私がラスベガスのシルク・ドゥ・ソレイユ公演「The Beatles LOVE」がとても好きで。言葉がなくても感情やノスタルジーが伝わる、難しいことではなく世界中どこでも伝わる原始的なものを有した作品というものがあるということをその「The Beatles LOVE」が示してくれていたということが海外で公演をしてみようと思った要因です。海外で上演される日本の演劇の多くがとても芸術的で、日本人にとっても感覚的なものが多いなと思っていたので、もっとシンプルな大人から子供まで共有できる感情だけで感動を与えられるものをいつか試してみたいという思いがありました。
劇団鹿殺しは演劇界ではマイノリティーに属すると思うし、私自身もどちらかと言えば感情をもてあましているマイノリティーに属する人間だと思うのですが、どこの都市にも自分のように生きづらいと感じている人は何人かいると感じていて、それを世界というスケールで考えた時にその人たちにとっては必要な舞台なのではないかと思い世界に出ようと思いました。
とは言え、以前はフルサイズの劇団作品で海外公演をやりたいと思い10年くらい招聘されるのを待っていたのですが、待っていても順番は来ないと思い、身体が動かなくなる前に行こうと決意してリサーチを始め、実質的に行けるサイズで参加することを決めました。その背水の陣の覚悟とエディンバラ公演のために削ぎ落とした作品に対して、英国の人たちは意味を感じてくれたのだと思います。日本から最小限のものを携えやって来て、最大限のものを見せようとしている私たちには何かあると思ったと終演後に話してくれるお客さんもいて、そこまでしっかり見てくれているんだと感激しました。日本人が海外へ来て裸になって盛り上げた、で終わってしまうかなと懸念していたので、オープニングで役者が振り返った時点で観客が“お、コイツらは本物だ”という反応をしてくれた時に、私たちをわかってくれるお客さんはここにいたとホームでやっているような気持ちになりました。


舞台写真
日本では不景気な上にチケット代も高いので、劇団の経歴や誰が出演するのか、何の賞を取っている人の舞台なのかといった前置きがあって、それによってチケットを買うかどうかを決めるという状況も多々あります。何か経歴を差し出さないとなかなか選んでもらえない、キャリアだけは重ねた劇団として苦しいなと思っていたところ、エディンバラでは何も知らずに観て明日も来ると言ってくれたリピーターや、チラシでビビッと来たと言って観に来てくれるお客さんと久しぶりに出会うことが出来ました。5回もリピートしてくれたり、ブライトン公演まで来てくれたり、経歴や前評判からではなく自分の価値判断だけで評価してくれるお客さんとの出会いが嬉しかったです。
(日本では多くの選択肢の中から劇場へ足を運ぶ1本を選ぶことになるのだと思いますが、)英国の人たちは普段から舞台をたくさん観ているので、日常生活の中でのお金の使い方と言うか、やはり人々の中での演劇のポジションが違って日本よりも身近なのでしょうね。まあ、フリンジでチケットが安いので気軽に観てくれるというのも理由の一つであるとは思います。
「銀河鉄道の夜」という題材選びも良かったのではないでしょうか。
そうですね、日本では誰もが知っている宮沢賢治自体あまり知られていなくて、「銀河鉄道の夜」の話も誰も知らないのですが、やはり生と死といったテーマやストーリーもきちんと追ってくれていました。去年親友を亡くしたという女の子が泣きながら感想を言いにきてくれて、本筋を理解してくれた上に自分に置き換えて観てくれているんだと感じました。劇を観た後にその人の行動が変わるような、そんな即効性のある芝居を作りたいと思って演劇をやってきたので、その面でも英国の人々に少しは届いたかなと思って敢行して良かったなと思っています。前情報なくその場で観ただけの人たちにちゃんと全部伝わっているというのが嬉しいし、自分的には客観的に見て快挙だなと思います(笑)。


手作りの英語字幕スケッチブックを掲げる役者たち
今回の成功には2年半かけた準備というのも関係してくると思うのですが、どんなことに留意して取り組んだのですか。
意外かもしれませんが、私たち根が真面目な上にお金の使い方にもシビアなところがありまして、やはりクラウドファンディングで多くの方にお金を出してもらっての公演だったので最高の成果を出したいというのはありました。
まず劇場を借りるところから難しくて、最初に申し込んだ年は劇場が借りられませんでした。何年か続けないと意味がないと思っていたので、どの劇場だったら公演をする意味があるのかを過去に参加したことのある人たちに聞いたりしました。そこである程度メジャーな劇場を狙ったのですが、そこは他の演劇祭で過去にアワードを取るなど何らかの実績がないと受け入れてもらえなくて、そこでせめてという気持ちで人が集まるエリアを絞って探しました。エディンバラ城近くのGreensideという小さめなグループの劇場Thistle Theatreを押さえることが出来ました。

エディンバラ・フリンジ2025、出演・演出の菜月チョビ、劇場スタッフ、観客と
現地の劇場のスタッフ対応とかはいかがでしたか。
小さな劇場なので、プロフェッショナルと言うよりも演劇好きの若い人たちがやっているという感じではありました。知らないうちに舞台監督が変わっていたり、反面おおらかなところもあって、すごく暑い日には通りに面した窓全開にして良いよと言われて、大型扇風機の音も混ざった中で上演したりしました。
初日からソールドアウトというのは本当に珍しいことなので、スタッフがずっと“君たちはレジェンドだ”と言ってくれていました。私たちは初参加だったのでMervyn Stutter Spirit of the Fringe Awardがどれほど凄いのかピンとこなかったのですが、そのことも凄い!あり得ない!!と盛り上がってくれていました。Greenside創業以来のナンバーワン売上で動員数も一番、“君たちはレジェンドだ”と熱く盛り上がって喜んでくれて嬉しかったです。
丸尾さんが“劇団鹿殺しが目指して実践してきたことを1時間弱の舞台につめた”と語っていましたが、その目指してきたこととは何なのでしょうか。
その人の人生がつまった身体で表現する身体表現を含め、一人一人の人間力に意味を持たせるということでしょうか。役をどう演じるかに加え、その役者がどう生きてきたかを見せる、その役者自身の魅力を好きになってもらうために身体を使うといったことですね。あとは俳優が表現するイメージの強烈さでしょうか。自分自身はアーティストではないと思っているのですが、そんな私が出来ること、バレエダンサーのような特別な能力があるわけではない自分がお客さんからお金を徴収できるような何かを身体に含有しているということを大切にする、それをメンバー間でも常に共有しています。

エディンバラでの街頭宣伝パフォーマンス
今年5月、2回目の英国公演となったブライトンはどうでしたか。
エディンバラの公演を観てくださったブライトンの方がブライトンフェスティバルに呼んでくれて、フェスティバルの参加者に対して奨学金を出している団体から奨学金も取ってくれました。それで全ては賄えないのですが、見ず知らずの私たちにそこまでしてくれることがありがたくて参加を決めました。エディンバラよりも規模は小さいですが、お客さんたちの面白いものを探している熱はさらに感じましたね。おかげさまでブライトンも満員になって、追加公演が出ました。スタッフさんもエディンバラ同様に熱かったのですが、お客さんの盛り上がりはさらに凄かったです。さっき街中でベビーカーを押していたお母さんが子供3人を連れて観に来てくれて、また、これまで経験したことがないようなスタンディングオベーションもありました。街中でビラを配っていても多くの人が話を聞いてくれて、実際観に来てくれて、優しい街でした。


英国の有名な避暑地ブライトンでくつろぐ俳優たち、夜は英国ならではのパブで祝杯をあげる
今年2026年の8月もエディンバラで公演をするわけですが、何か変えるところ、新しく試すことなどはありますか。
今年は別の劇場、フリンジのメジャー劇場の一つで123席のUnderbelly Cowgateで昨年同様にフルタイムで公演します。日本で凱旋公演をした際に演出を加えたところ、たとえば歌舞伎のシーンで水を使ったりしたものを取り入れます。Underbellyがメインストリームの劇場なので、そこでどこまでやれるのかが楽しみです。
また、エディンバラの後にロンドンで1日だけ、9月2日にUnderbelly系列の劇場、Underbelly Sohoでやれることになったのでそれも楽しみです。
帰国後は11月から渋谷のCBGKシブゲキ!!でCUBE GLOBAL STAGE PRESENTSという凱旋公演が始まります。CUBEのプロデューサーさんがエディンバラで舞台を観てくださって、昨今のインバウンドの増加にあわせて海外からのお客さんを取り込んでのロングランを目指します。私たちが劇団でショルダーパッズを上演した時は男性の裸のチラシということもあり、お客さんの呼び込みも苦戦する状況があったので国内でどこまで広がりをみせられるかというところですね。一度でも観てもらえればこの良さをわかってもらえてファンになってくれるのですが。
海外で評価されている日本人というということで演劇観客層だけでなく色々な人が観に来てくれれば、またひとつ客席の景色が変わるのではないかと思っています。日本の小劇場で築き上げたものだけの作品で海外の人たちが泣いているのを見て日本の方々にもぜひ興味を持ってもらいたいと思います。
さらに、日本には外国人の人、英語が日本語よりも得意な人、そんな子供はたくさんいると思うので、お勉強的なものではない英語劇を届けたいと思います。宮沢賢治が原作なので、たとえばバイリンガルの子供たちが通う学校の授業の一環として観に来てもらっても良いかな、と。演劇は観客の想像力を駆使して観るものだということがわかる作品なので、演劇入門として子供たちや学生さんに観てもらいたいです。
エディンバラのレビューで「大胆で独創的、そして驚くほど心に響く、これこそが私たちが求めているフリンジの精神そのものである」という記述がありました。
本当に英国で仲間を見つけたという気持ちです。自分はここで生きるべきだったのかもと思うほどに居心地が良かったです。カナダでは演劇がもう少し“大人のたしなみ”的なところがあって、アーティストへの待遇は良いし助成金も潤沢に出ているので、お客さんを頑張って集めなくても劇場の会員だけで運営していけるようでした。なので、作る側としては恵まれているのですが、演劇が高尚な楽しみであるように感じました。英国はさらにその傾向があるのかなと思っていたのですが、原始的なところでここまでわかってもらえる仲間がいたと感動しました。取材をしてくれた記者の人たちも“日本からわざわざ来たからには何をしたいのだろう”と純粋に興味を持って接してくれて嬉しかったです。
次の展開としてはどのようなことを考えているのでしょうか。
エディンバラフリンジに参加した先人たちからの教えで3年間は同じ演目を続けるといいと聞いたので3年目もブラッシュアップをしながらフリンジに挑戦したいと思っています。
一方で、この最初の作品で私たちがどういったクリエーションをしている人間なのかというのは伝わっていると感じたので、他の作品を海外で作るとか海外の人たちにショルダーパッズをやってもらうとか、私たちのフィジカルと人間味を海外の表現者たちに手渡すということにも興味があります。色々な国で上演したいのと同時に現地でこのショルダーパッズを体験、演じたいというような人に出会いたいというのがあります。また、この作品に共感してくれた人たちともっと大きな規模のミュージカルの海外公演に挑んでみたいですね。

ブライトンの街を歩く劇団鹿殺し
2Shoulderpads 『2Shoulderpads:GALAXY TRAIN』エディンバラ公演
公演期間:2026年8月5日〜30日 全ステージ 14:15~(60分)
劇場:Underbelly Cowgate, Belly Button
Edinburgh, UK
詳細:https://shika564.com/shoulderpad
または https://underbellyedinburgh.co.uk/events/event/2shoulderpads-galaxy-train
2Shoulderpads 『2Shoulderpads:GALAXY TRAIN』ロンドン公演
公演期間:2026年9月2日 20:00-
劇場:Underbelly Boulevard Soho,
London, UK
詳細:https://shika564.com/shoulderpad
または https://underbellyboulevard.com/tickets/2shoulderpads-galaxy-train/
2Shoulderpadsの活動継続を応援するサポートシステム「PADS」が始動
詳しくは https://note.com/apt_impala6699/n/nacac8b8bb105?app_launch=false
