座・高円寺が新たな船出を迎えた経緯とは

5月某日、座・高円寺2階のまぁるいカフェにおいて、今年度より座・高円寺の館長に就任した合同会社syuz’gen(シュツゲン)の大川智史から、今回の【まちと劇場のカフェトーク】VOL.1*を開催することとなった経緯が語られた。

*このカフェトーク企画は劇場内のスタッフと外の利用者の間の相互理解を深めるべく、今後もテーマを変え、スタイルを変えながら毎月のペース(可能な限り)で継続していくとのこと。

「座・高円寺では4月1日から運営を担う事業者がこれまでの、特定⾮営利活動法⼈劇場創造ネットワークからから指定管理事業者、合同会社syuz’gen(シュツゲン)へと切り替わりました。事業者の変更は劇場にとっても、地域の皆様にとっても小さくない変化であり、そのことで人々が不安に思われていることなどをなるべく早く解消していきたいと思っています。

「従来は年度代わりのタイミングで行なっていたプログラム発表会ですが、syuz’genが参入したのが4月1日だったもので発表会の準備が整わず、4月2日にHP上で「座・高円寺 2026年度ラインアップ発表! &リニューアルシンボル掲出、新体制始動のお知らせ」と題したプレスリリースという形でのお知らせになってしいました。この第一回のトークセッションの場でラインナップ発表を行いたいと思います。」

2026年度ラインアップ(2026年4月〜2027年3月)

https://za-koenji.jp/business/1084

(これまでのプログラムからリニューアルされた点の概要)

・これまでの劇作家協会セレクション公演に加えて、今年度から日本演出者協会のセレクションが新たにプログラムに加わった。

・主催公演に関しては前任の劇場創造ネットワークから引き継いだもの、対象やコンセプトを引き継いでいるが内容や名称をリニューアルしたもの、そして一からsyuz’genが独自に企画を立てて上演するもの*がある。

*4〜5月に上演した現代美術家梅田哲也による「空洞」はこのカテゴリーにあたる。

・その主催公演としてはこれまで継続してきたピアノ演奏と朗読を組み合わせた「ピアノと物語」シリーズの「トロイメライ(演出:シライケイタ)」を12月に、そして9月には杉並区の区立小学生、小学4年生の生徒を招待して「夏の夜の夢(台本:岩崎う大、演出:シライケイタ)」26回公演を実施する。

・これまでの二年制(月〜金:全日制)の演劇学校、「劇場創造アカデミー」をリニューアルして週3回の夜間制、1年制の教育プログラム「座・高円寺演技アカデミー」を創設。今年は15名の生徒が入校。

・他に、従来通りこども向けのプログラムの充実を図り、毎週土曜日に「えほんのわっか」という絵本の読み聞かせと自由工作のプログラムを、8月からは「プレイサークル」と銘打ってのワークショップ(毎週土曜日)を開催する。

(c) Nobuko Tanaka

左ー>右 シライケイタ芸術監督、大川智史館長

続いて6月5日(金)に開幕する新作、芸術監督のシライケイタ演出の「長生炭鉱—生きたかった」についての説明がなされた。

劇団温泉ドラゴン(日本)と劇団58ROUTE(韓国)の日韓共同制作

「長生炭鉱*—生きたかった」

上演期間:6月5日(金)〜14日(日)

作:キム・ミンジョン

演出:シライケイタ

*長生炭鉱: 1942年2月3日に起きた山口県宇部炭鉱の一つである海底炭鉱である長生炭鉱での海水流入事故(水没事故)。朝鮮半島出身者136名と日本人47名が犠牲となり、今も海底の坑道に眠っている。

シライケイタより

「日韓ワールドカップで日韓の交流が盛んになった2002年、僕の大学生時代にソウルで開かれた「世界学生演劇祭」に参加して韓国人の演出家の作品に役者として出演したのが韓国演劇界との交流の始まりでした。その後2013年に上野ストアハウスが主催した「日韓演劇週間」第一回上演に温泉ドラゴンとして参加をしました。その時に今回共同制作をする劇団58ROUTEの代表であるコ・スヒ(「焼肉ドラゴン」の出演で日本でも人気の女優)が所属するコルモッキルが韓国側から参加していました。その後3年間、両国間で、温泉ドラゴンが韓国で上演するなどのコラボレーションが続きました。具体的には2年前にスヒから「一緒に何か作ろう」と持ちかけられ、この企画が始まりました。

「昨年、2025年に坑道内で遺骨らしきものが発見されたというニュースが出たことで韓国でも長生炭鉱のことがニュースになりました。(その骨は人骨ではなかったのだが)企画発案の時点ではまだそのニュースはなかったので、執筆中にどんどん状況が変わっていっています。なので、現実が(今回の劇の)フィクションを追いかけるような事態になっています。

「これまで長く韓国の演劇人と関わってきましたが、一度も歴史認識や植民地時代の話を腰を据えてしたことはありませんでした。その話題に踏み込んでいくと途端に気まずくなる、と多くの人から言われてきたからです。それに対して常にもどかしさを感じていた自分というものもあったのですが、今回、稽古場でそこへ踏み込まざるを得ないという事態が発生しています。強制連行という用語をめぐっても日本で議論になるところ、稽古場でそれについて話し合っていかなければならず、日本の歴史認識についても話していかなければなりません。これが稽古の序盤で気を遣った点です。さまざまな辛い経験を乗り越えて、現実的に日韓の俳優とスタッフが一緒にこの作品を作っているということが未来へ向けての希望であると思っています。」

アクセシビリティの観点からも舞台上には日本語、韓国語の両方の字幕が付き、さらに音声ガイドサービスもある上演になるということだ。

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(c) Nobuko Tanaka

最後に館長の大川と芸術監督のシライから新しくなった座・高円寺が目指すところが語られた。

大川智史

syuz’genという会社名の由来が“出現=シュツゲンする未來”というところから来ています。アートマネージメントの専門集団syuz’genには出会いを作ることが会社のコンセプトとしてあり、今まだ存在しない、または今はまだ見えないものを作っていく目的で指定管理者の応募に手をあげました。劇場というと、いまだにどこかドレスアップして訪れる特別な場所というイメージがあると思うのですが、私が劇場に関わるようになって強く思うこととして“劇場は日常の場所”であるということです。なので、日常の場所としての劇場をここ座・高円寺で作っていくことに尽力していきたいと思っています。

これまでsyuz’genでは芸術関連の仕事ではあるものの、クライアントワーク、つまり誰かのプロジェクトを受けてそれをより良いものにするという仕事を主に手がけきていて、自主的な企画というのはほとんどありませんでした。約10年の活動を経て、これまで培ってきたノウハウを活かして自分達が考えてきた未来像を形にしていく場所が必要なタイミングなのではと感じていたところで、座・高円寺でそれをやりたいと思いました。シライケイタさんが所属している劇団温泉ドラゴンはsyuz’genにとって最も長くお付き合いのあるカンパニーなので、そのシライさんが芸術監督である座・高円寺だったら力になれる可能性がより高いのではないかと考え、指定管理者を公募しているということで、そこに向けて準備を進めたというのが流れです。

シライケイタ

座・高円寺の開館にあわせて劇場を運営するための特定⾮営利活動法⼈劇場創造ネットワークが劇作家協会が主体となり立ち上がりました。演劇人の手で劇場を運営できたらその後の演劇界にとっても良いのではないかという信念の元、2009年から杉並区で存在感のある公共劇場として発展させてきました。“地域と強い繋がりのある広く開かれた劇場”という前芸術監督である佐藤信さんが掲げたコンセプトはかなり高い確率で実現されてきたと思います。

一方で、何度も劇場に通い、実際に作品を上演したこともあったにも関わらず、芸術監督として赴任するまで知らなかったことが多くあったことを実感しました。例えば、杉並のこの地域ではかなり広く開かれているのですが、そのことが外に広がっていない、演劇人たちにあまり知られていないんです。そこで、この劇場のことをもっと知ってもらう必要があるのではないかと思い立ちました。芸術監督が変わったところで、僕が2年半かけて頑張っても、その“遠くまで届ける”ことは難しかったという実感がありました。

syuz’genは一つの劇場を運営するためにできた会社ではなく、さまざまなフェスティバルや劇場の運営に携わったり、海外招聘をしたりと幅広い経験を持っていますので、指定管理者となってすぐにまず、劇場をその目指していた軌道にのせてくれて本当に心強く感じました。あと、社員さんが若いので、皆が明るいというのも良い点です。

例えば、外に広報を広げていくという面で驚いたし心強いと思ったのが、syuz’genが提携公演の公募条件を全面的に見直して、それを外に発信したことです。これまでも提携公演は公募でしたが、まず劇場に問い合わせなければ詳細は知ることが叶いませんでした。それを外に発信し、さらに例えば舞台手話をつければ正規料金から1割引きますとか、ある設備と対策をしたら1割引きますとか、全体のカンパニーの構成年齢が何歳以下だったら1割引きます、といったように劇場の目指すところと密接に結びついた公募条件を提案してくれました。且つそれらを迅速に行なってくれているので、とても心強い存在だと感じています。