世界的な作家“Giant”が話し合いたかったこととは

©Johan Persson

作家ロアルド・ダール(左)と営業担当者ジェシー・ストーン

2025年のローレンス・オリヴィエ賞で3つの最優秀賞の栄冠(新作戯曲賞、男優賞、助演男優賞)に輝いた「ジャイアント(Giant)」を映画館で楽しめる日がやってきた。

映画化、舞台化され英国はもちろんのこと、世界中で愛読されている『チョコレート工場の秘密(1964年)』『オ・ヤサシ巨人 BFG(1982年)』『マチルダはちいさな大天才(1988年)』などの作者として知られる小説家、脚本家ロアルド・ダール(Roald Dahl /1916-1990)の晩年のスキャンダルエピソードをもとに書かれた本作。ダールを演じた米国人俳優ジョン・リスゴー(John Lithgow)(「シュレック(2001)」「教皇選挙(2024)」など)はオリヴィエ賞の他にブロードウェイ公演でトニー賞の主演男優賞を受賞、「本作は、私がこれまでに出演してきた舞台の中で、最も観客に強い衝撃を与えた作品になりました」とコメントしている。

英国人の演出家マーク・ローゼンブラット(Mark Rosenblatt)の劇作家デビュー作である今作では長きにわたり英国ナショナルシアター(NT)の芸術監督としてNTの黄金期を築き、現在はブリッジシアターで芸術監督を務めるニコラス・ハイトナーが演出を手がけている。

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テーブルを囲むダールとストーン、そして間で仲裁役を担うトム・マシュラー(真ん中)

あらすじ:
1983年の夏、児童文学作家のロアルド・ダールは著書『魔女がいっぱい』の最終校正作業に追われていた。そんなダールは、イスラエル軍によるレバノン侵攻を扱った本のレビューの中で反ユダヤ主義的ととらえられかねない発言を行い、非難や脅迫の対象となったため、周囲はこのスキャンダルの火消しに動き、彼に謝罪を促す。そんな中、ダールと妻が実家で過ごしていたある午後、ユダヤ系アメリカ人、米国での出版社営業担当である女性が謝罪を求めるため来訪したことで予期せぬ対立が勃発、激しい口論へと進んでいく。

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ダールの妻、フェリシティ・クロスランド

文筆家としての輝かしい経歴の中、ダールが1983年にLiterary Review誌に発表した、イスラエルによるレバノン・ベイルート侵攻に関しての書籍「God Cried」のレビューでの発言が“反ユダヤ主義”であるのでは、といった物議を醸し出し、多くの批判をあびた上、その後もさまざまな影響、例えば彼の生誕100周年を記念した硬貨の製造が見送られるなどの影響を与えたのだ。

今でもさまざまな場面で取り沙汰され続けている反ユダヤ主発言論争を家族と友人の昼食会という場での論争としてギュッと凝縮したのが「ジャイアント」。関係者の一人が「彼がいつも夕食の席でしているように挑発したかったのだろう」と語っているように、そして劇中でダール役のリスゴーが大声でアメリカ人営業担当に怒鳴りつけているように、彼には激しい気性という一面が確かにあったのかもしれない。が、一方で、彼の言い分に耳を傾けることで、長きに渡り論争の火種であった“反ユダヤ主義”、さらにはその(親・反)対立構造自体の矛盾について我々が今あらたに考えを及ぼす恰好のきっかけとなるのではと感じている。

どちらの言い分が良い悪いと簡単に白黒がつけられない、解けない混み入った問題である上に、現代のハラスメント社会では会話の題材にあげる段階で躊躇、避けられ、お茶を濁した状況で終わってしまうであろう問題を、家族内での内輪の会話—言い争いではあるのだが—とすることで、公の場では見ることが稀有なオープンに意見をぶつけあう姿を目にすることが出来る。双方の言い分を客席で聞いている身としては、ありがたいことに白黒つけることなくその議論に参加することが可能ということだ。

そもそも決着をつけようとすること自体が無理で、矛盾を孕んでいるのだから、この作品が目指したところは“双方の立場になって、その上でまずは難題に向き合ってみよう”ということなのではないだろうか。

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面白いことにこの反ユダヤ主義がテーマとなっている作品に関わっている人々、作者(ローゼンブラット)、演出家(ハイトナー)、そして本作のトム・マシュラー役で最優秀助演男優賞を受賞したエリオット・リーヴィーがみな英国系ユダヤ人であるということ。彼らが自らのアイデンティティ、ルーツを公に問いかけていると言えるのかもしれない。

その反ユダヤ主義の解けない問いの他にも見どころは満載で、まずはとことんどこまでも英国らしさが全編に充満しているのが嬉しい。

来訪者を囲んでの昼下がりのランチ、お手製のレモネード、重要な庭の手入れ、ジャイアントと周囲から恐れられる大物ダールのような気難し屋さんは英国社会のそこここに居そうだし、彼を愛する切れ者の妻フェリシティ(レイチェル・スターリング)もいかにも英国人らしく、なんと言っても英国人ならではの皮肉たっぷりのジョーク、またそれに即座に切り返す知的な会話術が素晴らしいのでそのあたりも楽しんで欲しい。

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ダールを愛し、慰める妻フェリシティ・クロスランド(左)

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11月19日(木)から全国で順次公開

北海道 TOHOシネマズすすきの 11/19(木)&11/22(日)の2日限定上映

東京

TOHOシネマズ 日比谷 11/19(木)~11/26(木)
吉祥寺オデヲン 11/19(木)~11/26(木)
イオンシネマむさし村山 11/20(金)~11/26(木)
Morc阿佐ヶ谷 12/11(金)~12/17(木)

神奈川 横須賀HUMAXシネマズ 11/19(木)&11/22(日)の2日限定上映

埼玉  イオンシネマ川口 11/20(金)~11/26(木)

茨城  イオンシネマ守谷 11/20(金)~11/26(木)

愛知  ミッドランドスクエアシネマ 11/20(金)~11/26(木)
    イオンシネマ豊田KiTARA 11/20(金)~11/26(木)

大阪      TOHOシネマズ 梅田 11/19(金)~11/26(木)

京都  京都シネマ 11/27(金)~12/2(木)

福岡      TOHOシネマズ ららぽーと福岡 11/19(木)&11/22(日)の2日限定上映

熊本  熊本ピカデリー 11/20(金)~11/26(木)

鹿児島 ガーデンズシネマ 12/5(土) &12/13(日) の2日限定上映

詳細: https://www.culture-ville.jp/giant