遡ること2018年12月、演出家藤田俊太郎の姿は日本から9,500 km離れた英国ロンドンにあった。自身初となる挑戦、現地の役者、スタッフ達ともにミュージカル「VIOLET/ヴァイオレット」を制作し、３ヶ月公演を成功させるために。
2023年度の読売演劇大賞、大賞に輝いた演出家によるオール英国人キャストの舞台「VIOLET」は2019年1月21日にロンドン、チャリングクロス劇場で幕を開け、見事にオフ・ウェストエンド・シアター・アワードで作品賞を含む6部門にノミネートされるという快挙を果たしたのだ。
2020年、日本人キャストによる日本バージョンはコロナ禍のため予定を大幅に変更、東京で３日間限定での上演となったものの、今回、新たな演出のもとでの待望の再演舞台のツアーが決定。東京の他にも、大阪、福岡、宮城で上演されることが発表された。
3月8日都内で行われた制作発表会には演出家藤田とキャスト１４名が集結、珠玉のミュージカルの日本版制作に込めた思い、各々が稽古を通して思うこの舞台の感想を語った。
ストーリー（原作：ドリー・ベッツ 脚本・歌詞：ブライアン・クロウリー 音楽：ジニーン・テソーリ）
1964年、米国南部の片田舎、幼い頃に不慮の事故によりおった顔の傷のため、人を避けながら暮らしてきた主人公のヴァイオレット（W キャスト：三浦透子、屋比久知奈）はテレビで知ったあらゆる傷を直すという奇跡の伝道師に会うために長距離バスに乗り込む。この旅で彼女はさまざまな人たち、黒人兵士フリック（東啓介）、白人兵士モンティ（立石俊樹）、ヴァイオレットに忠告する米国南部の老婦人（樹里咲穂）らと出会い、これまで知らなかった家の外の世界の現実と向き合うこととなる。彼女が旅の果てに見たものとは？
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冒頭、作品について聞かれ“「ヴァイオレット」は奇跡をめぐる女性の成長ものがたりです”と切り出した演出家藤田俊太郎。
“前回の2020年の東京での舞台と違うところとして、今回は舞台上に32席のオン・ステージ・シートを設けました。その席のお客様にはとても近い距離で音楽も一緒に感じていただきながら、15人目の乗客としてヴァイオレットと一緒に旅をしていただくというのが今回の演出の狙いです”と今回の再演版の見どころを明かしてくれた。
舞台を通して旅を続ける主役のヴァイオレット役の２人（日替わりのWキャスト）は主人公のキャラクターをどのように思っているのだろうか。
三浦透子は“いろいろな形で自分の心を守って生きてきた女性だなと感じています。それは人生の中で身につけてきた生きる術なのかな、と。そんなヴァイオレットが友達と出会ってやわらかくなっていく、そういった瞬間を舞台の中で作れたらいいなと思っています”と話す。
そして、もう一人のヴァイオレット屋比久知奈は“彼女はとても多面的なキャラクターだなと思っています。いろいろな思いを抱えていて、すごく苦しんでいるけれどもどこかピュアで真っ直ぐで、同時に世界を斜めに見ている視線もあって。なので、ヴァイオレットはこうだ、と一つに縛られないようにしなくてはいけないと感じています。私自身が敏感に作品の中でヴァイオレットという人間を探していきたいなと思っています”と応えた。
そんな二人について、演出家は三浦のヴァイオレットは心の中に強い信念と気持ち、明るさを持ったヴァイオレット、一方で屋比久は全身にパワーをみなぎらせ、パッションあふれるヴァイオレットになっている、と分析する。
その上で、“今表した言葉だけでもお分かりいただけるように、全然違うキャラクターのヴァイオレットが稽古の中で生まれつつあります。
“ヴァイオレットのお二人がここにいますが、それぞれ衣装が違います。そしてヤングヴァイオレット（記憶の中に出てくる幼少期のヴァイオレット）の三人（トリプルキャスト：生田志守葉、嘉村咲良、水谷優月）の衣装もご覧の通り、違います。なので、僕は６バージョン全く違うヴァイオレットを作ろうと思っています。ですので、何度でも劇場へお越しいただければと思っています”と楽しそうに微笑む藤田。
“この芝居では差別が融和する瞬間や人と人が交流して優しい気持ちが生まれる瞬間、顔の傷が見えなくなる瞬間、心の傷がなくなる瞬間が旅の中、そして日常の中でたくさん訪れるので、その瞬間を大事にするよう心がけながら演出しています。”
作品の見どころを聞かれ、ヴァイオレットとフリック、モンティが立ち寄るミュージックホールのシンガー役でソウルフルな歌声を聞かせるsaraは“お客さまと一体になって作っていく、とても特別な作品だと思います。私自身、毎公演、新たな出会いがあるという気持ちでいろんな新しい価値観に出会いながら公演期間を過ごしていきたいなと思っています”と話す。
また、ヴァイオレットが傷を治してもらうため旅の最終目的としている伝道師役の原田優一は“この作品の発信していることはとてもシンプルだと思います。隠されたとてもシンプルなテーマが積み重なっているという作品です。ぜひお客様各自の人生経験でもって見てもらえたら、そういうことか、とわかってもらえると思います”と力を込めた。
そして最後に演出家が“上演のラストシーンでは劇場全体が優しい光に包まれるような舞台をみんなと一緒に作っていきたいと思っています”と意気込みを語り、しめくくった。
“ヴァイオレット”
4月７〜21日 東京芸術劇場プレイハウス（東京・池袋）
4月27〜29日 梅田芸術劇場シアタードラマシティ（大阪）
5月4日 キャナルシティ劇場（福岡）
5月10,11日 仙台電力ホール（宮城）
問い合わせ：℡ 0570-077-039/06-6377-3888 梅田芸術劇場