チャリT企画はふざけながらマジに問いかける

早稲田大学の演劇研究会(劇研)の内部劇団(アンサンブル)として作・演出の楢原拓が1998年に旗揚げし、その後に“ふざけた社会派”のキャッチフレーズがすっかり定着した劇団チャリT企画。

記念すべき旗揚げ公演のタイトルが「トロツキスト」でその後も「ケータイ電話ハ繋ガリャ良い!」(2002年)、「ハンニチでコンニチハ!」「アベベのべ」(2006年)、「アンポテンツ」(2010年)、「イスラム国がやってくる!?アラ!アラ!アッラー!」(2015年)、「キョーボーですよ!」(2017年)、「うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた」(2021年)となんとも気になるタイトルの作品を次々と発表し続けている。

思わず見かえしてしまうチャリT企画のチラシ

その“ふざけた”タイトルに惑わされることなかれ、中身はその時々の時事ネタ、社会現象をしっかりと見据え考察した、切れ味鋭いものとなっていている。

早稲田大学キャンパスからほど近い高田馬場にある劇団チャリT企画の事務所を訪れ、代表の楢原に“ふざけた社会派”の本意について、2028年に30周年を迎えるという劇団のこれまでの歩みについて聞いた。

Q:早稲田の文学部卒業ということですが、大学ではどういったことを学んでいたのですか。

文学部の人文専修という、色々な科目をつまみ食い出来るところで多岐に渡った内容を学びました。早稲田大学を選んだのは一途に早稲田の劇研(早稲田大学演劇研究会)で演劇をやりたかったからです。卒論は劇研での先輩劇団だった劇団山の手事情社について書きました。

実質的に影響を受けたのは山の手事情社の下の世代の劇団、明星真由美さんや今林久弥さん、小林至さんがいた「双数姉妹」ですかね。私も初めは役者として「双数姉妹」に入団しました。そこの稽古で毎回フリーエチュード(即興)をやるんですが、先輩方の繰り広げるそのエチュードが、 “こんなの無料で見て良いのか”というぐらい面白かったのを覚えています。山の手事情社主宰の安田雅弘さんが当時演劇雑誌で連載していたコラムの中で「稽古場は間違える場所である。色々な間違いを積み重ね、試行錯誤していくことで新しいものを生み出していくのだ」というようなことを言っていて、そのような言葉にとても感化されました。なので、初期のチャリTは山の手事情社や双数姉妹の影響を受けた劇団でした。台本は無く、フリーエチュードで稽古をしてそれを構成し舞台に上げるという形で、私自身、構成・演出ということで楢原の名前ではなく「chari-T」とクレジットしていました。

そういった即興や構成芝居の手法は、元々は早稲田小劇場(のちのSCOT)の鈴木忠志さんの影響があったと伝え聞いていますが、劇研の大先輩・大橋宏さん率いる早稲田「新」劇場(1978〜1985年)の頃からの劇研の伝統スタイルで、山の手事情社や双数姉妹、東京オレンジ、その後の我々世代、さらにその下の世代にまで受け継がれてきたものですね。

Q:そんな即興・構成演劇をしていたのが今や代名詞である“ふざけた社会派”の作風に変わっていったのはなぜですか。

初期の頃からその傾向はあったんです。例えば、初期(早稲田劇研時代)の劇団のロゴマークには昭和天皇の肖像の加工イメージが入っていますから(第三回公演からこのロゴマークが入っている)。今のロゴはもうちょっとオブラートに包んでいますが、当時はもちろんタブーでした。なんのためらいもなく、そのタブーを使ってしまう無邪気さと言うか、なんでも舞台にのせてしまえという勢いだったのだと思います。初期の頃からそのようなコンセプトでやっていました。例えば、当時早稲田大学に入学したばかりの某アイドルの方を風刺ネタにしたりとか、今だったら即炎上していますよね。まあ、炎上商法みたいなものですかね。

あの当時はインターネット黎明期でスマホやSNSはまだ無かったので、その毒がこの早稲田界隈で留まっていたと言うのはありますね。今やっていたら潰されていたと思います。その意味では世の中が今よりもずっと寛容でしたね。

撮影:金丸 圭

「泣けるか笑えるかする」(2001年)  —黄色いTシャツでシャウトしているのが楢原拓

それは大学の環境も同じで、当時拠点としていた大隈講堂裏の劇研アトリエは24時間いつでも使えましたけど、だんだんと大学の管理が厳しくなっていって、今はそこまで自由には使えなくなっているようです。先輩から譲り受けた材料やキャンパスで拾ってきた廃材を使って無料でセットを作ったり、夜まで作業をしたり出来たので、屋台崩し(舞台上の大きなセットを一気に壊すスペクタクルな演出法)や回転盆(回り舞台)などの大掛かりなことをたくさんやって、そこにアイディアをのせていたという感じです。

今思うと、誰もが楽しめる作品では決してなかったとは思いますが、好き放題にやっていました。

大学卒業後は、まず劇場費がかかる、装置を作るにもお金がかかる、上演をするのに諸々お金が必要になったわけです。ちょうど「静かな演劇」の平田オリザさんがブームになって地に足がついた作品が流行っていた時代の中、資金もない中で何が出来るかとなった時に作ったのが「アベベのべ」*(2006年初演)です。

撮影:宮木和佳子

「アベベのべ 2006」(2006年再演)

*憲法改正国民投票前日のコンビニのバックヤード。そこへその夜の当番の従業員が国民投票法違反の疑いで逮捕されたらしいというニュースが飛び込んでくる。夜勤の交代員が見つからなければ働き続けることとなる店長は必死で解決策を模索することに。コンビニの労働環境と並行して、国民投票法違反とはどんな罪なのか、さらに安倍政権下で施行される国民投票法によって変えられようとしている憲法について考える内容となっている。その後、上演時の安倍政権の状況を反映しながらの再演(2016年、2022年)がなされ、劇団の代表作の一つとなっている。

まあ、この作品から徐々に作風が変わってきました。なので「アベベのべ」を観にきたそれまでの常連のお客さんは少し面食らったと思います。彼らはコンビニのセットが崩れて何かが出てきて、というようなものを期待していたのだと思いますが、ラストは静かに暗転して終演しましたから。「アベベのべ」の後は社会派路線のものを作りながら、一方でどこかフラストレーションがたまるとちょっとめちゃくちゃな作品を上演すると言うのを繰り返してきた感じです。その意味で言うと芸能事務所内のパワハラ・セクハラを扱った「Wの悲劇」(2023年)なんかは思いっきり、当時、所属タレントへの性暴力が問題なっていた某大手芸能事務所をいじり倒して、角川映画のパロディを散りばめていますから、そちらに属するのかもしれません。

Q:多くの人が扱うことに躊躇するような際どいテーマを取り上げることについてはどう考えていますか。

根が不真面目で不謹慎なのだと思います。真面目に生きている人たちには眉をひそめられるようなところがあるのですが、まあそれを自分の強みとしてやっています。

Q:昨今、お客さんがつめかけているのは例えば劇団チョコレートケーキや新劇系劇団の政治や社会問題を扱った舞台で、観客は結局そのようなものに興味があると感じています。

自分の年齢もあると思いますが、若者の自分探しの芝居とかには興味がわかないですね。それよりも国会中継の方が気になります。

作品にしようと思う題材ということで言うと、大体絞られていて、例えば“死刑”“憲法”“戦争”、そういったものを描こうとしていますね。それらを扱うことによって、少しでも種が蒔かれれば良いなというのがあります。ただ、それが主義主張になってしまうと観客に響かないので、そこは巧妙にやらなければと意識しています。

どこかで人間同士は所詮分かり合えない、なので問題は解決しないなという思いがあります。私自身、あまり人間を信じていなくて、また過ちを繰り返すのだろうなと感じています。とは言え、ただ指をくわえて見ているだけではいけないので、舞台を通じてちょっとでも抵抗してやろうみたいな、言いなりにはならないぞといった感じですかね。

昔から権威というものにものすごくアレルギーがあって、今まさに「国旗損壊罪」というのがあがってきていますが、あれがまさに私にとっては受け入れ難いものです。なぜそんなものを振り翳して、人を従わせようとするのか、まさにそれは権威主義ですよね。とは言え、その権威にすがろうという傾向が人間の本質としてあるのでしょう。おそらくナチスの台頭もそのような支持のもとで起こり、そして結局はあのような過ちを起こしてしまったのではないでしょうか。その意味でも今のこの流れは危ないと感じています。何百万の日本人が犠牲になり、辛苦をなめた後でようやく辿りついた憲法9条のもと、私たちが積み重ねてきた平和主義をそんなに簡単に手放してしまって良いのか、と単純にムカつきます。そのような思いが最新作の「ブン/ダン」*に溢れたのだと思います。

一方で、政権を交代させる術がスキャンダルだのみというのもどうしたものかと感じます。結局のところ、民主主義や人権意識に関する教育が徹底されていない、教育の失敗というところになっていくのかもしれません。だから国民の8割以上が死刑制度に賛成しているということなのでしょう。自分には縁の無いことだと思っている人が大半なのだと思います。

私自身も重い腰をあげて国会前に行くこともないので、指をくわえて見ているだけなのかもしれませんし、多くの人がそうなのでしょう。「ブン/ダン」ではそれを描いてみました。

撮影:鈴木 淳

「ブン/ダン」(2026年5月)

*あるシェアハウス内で意見の違いから徐々に蔓延していく住人たちの間の亀裂、そして分断を描いている。情報過多のこの時代、どの情報を信じれば良いのか。互いにハラスメントを主張し、お互いがお互いを疑う事態となったシェアハウスには以前のような平穏が消えていた。

(c) Nobuko Tanaka

チャリT企画主宰 楢原拓

Q:世の中に気づきの種を蒔く方法として演劇を選んだのはなぜでしょう。またその方法として“ふざけた社会派”のふざけることを選んだその意図はどこにあるのでしょうか。

政治に関心を持ったのが高校生の時で、最初に意識したのは1989年の参院選です。その時は消費税が導入された直後で、マドンナ旋風で社会党が大躍進しました。高校一年生だったのですが、授業中にラジオの選挙速報を夢中になって聞いていました。当時、国会中継もよく観ていました。

なので、劇団初期からそこかしこに政治的なネタを入れ込んでいました。

「ビンラディンだ〜」と叫んで歌った「泣けるか笑えるかする」は2001年12月の公演だったので、まさにあの「9/11」が起きた数ヶ月後の舞台です。街中にビンラディンのクローンが溢れ、彼らが街に炭疽菌を撒くという芝居でした。ドキュメンタリー映画、オウム真理教を内側から撮った映画「A」(1997年)を撮った映画監督、森達也さんの影響が大きくて、例えば「足立区」(1999年初演)という作品では日傘だと言いながら白い透明のビニール傘をさしている男が不当にも逮捕されてしまった、その顛末を描きました。そのように、その時々の時事ネタをいじり倒すような作品ばかり作っていました。

撮影:金丸 圭

「足立区」(1999年)

私たちの前の世代って、バブルとその直後の世代で、演劇もすごく華やかで、オシャレで洗練されたものが多い印象でした。「楽しくなければテレビじゃない」的な価値感で、芝居の中に難しい政治とか社会問題をダイレクトに入れるのがダサいというような空気感があったように思います。でも私らの頃はすでにバブルは弾けていて「失われた30年」の始まりくらい、世相的にも阪神淡路大震災やオウム事件が起きて否が応でもそういう問題と向き合わざるを得ない感じがありました。それで前の世代の持っていた政治アレルギー的な感覚をぶち壊してやろうというような、隙間産業的な狙いもあって、ガンガン政治的なものを入れ込みました。

初期の作品では政治的、社会的な事象を断片的に散りばめるにとどまっていましたが、だんだんと一つの作品としてよりわかりやすく伝えるようなものにしようとなっていき、まあ少しは進歩してきたのかもしれません。大学生の時なんてお客さんのことなど頭になく、自分がこうしたいということをただ見せびらかしていただけですから(笑)。それが年をとってお客さん視線で考えられるようになったということですかね。

ただ、演劇で何かを変えられるとは思っていなくて、自分達がやれることは限られていると思います。ですが、せめて抵抗はしようとは思っています。

質問のなぜ演劇なのかについてですが、たまたま自分がずっとやり続けているのが演劇であるということと1000人未満のキャパの劇場でなんの制約も受けずに、つまり商業演劇やスポンサーがついた公演ではなく誰の顔色もうかがわずにやれるということで、僕にとっては方法が演劇で種を蒔くということなのだと思います。

Q:社会派と言われる劇団の作品には歴史上の人物や実在の人物をモデルとしているものが多くある中、チャリT企画の作品では無名の身近な人々登場することが多いように思います。

実は今、評伝記の芝居を書いてみようかなと思っているのですが、チャリT企画では近未来の作品が多く、人物に関して自由に好き勝手な発想できるからですかね。とは言え、実はモデルがいる作品も書いていて、例えば「パパは死刑囚」(2018年初演)*は父親が母親を殺してしまった事件の本人(息子)である大山寛人さんがモデルになっていますし、今年2月には毒物カレー事件の死刑囚・林眞須美さんをモデルとした作品「シン犯人」**をPカンパニーに書き下ろしました。

撮影:鈴木 淳

「パパは死刑囚」(2018年)

*夫が妻と義父を殺して死刑判決を受けた実際の事件を元に書かれた作品。主人公はその息子で、彼の結婚式が舞台。被害者家族であり加害者家族でもある新郎の秘密がもれ始め、式場は大混乱に。

**運動会で使う大福に毒を混入したのは誰かというミステリーであると同時に取り調べ制度と死刑制度を問う作品。逮捕され、刑務所に収監されている犯人が無罪を主張し続けているのにも関わらず、死刑が執行されてしまうのだが、執行後に真犯人が名乗り出たことで事態は一変していく

Q:これからの演劇界についてはどう考えていますか。

演劇が流行っていないという話が流行っていますが、どうでも良いわと思います。(笑)小劇場演劇が流行ったのなんかほんのいっときですから。

今後の予定、詳細はウェブサイトで。

チャリT企画:https://www.chari-t.com/