
“あの”ジャン・レノの自分語りの芝居が日本で世界初演を迎える。そんな嬉しいニュースが舞い込んできた。
フランス人監督リュック・ベッソンの映画「グラン・ブルー(1988)」でその名を世界に知らしめたジャン・レノはその後同じくベッソン監督の「レオン(1994)」でその存在を確固たるものに。日本での彼の人気はその後の数々のヒット映画、さらにはドラえもんに扮したテレビコマーシャル(トヨタ)などで衰えを知らず、そんな彼のライブパフォーマンスをどこよりも早く観ることができるこのチャンスを逃す手は無い。
4月某日、リハーサルのために来日した俳優ジャン・レノ、演出家ラディスラス・ショラー、そして舞台でピアノ演奏を担当するパブロ・ランティが記者会見に登壇、「らくだ」と題された一人芝居についてその中味を明かしてくれた。

演出家 ラディスラス・ショラー

ピアノ演奏 パブロ・ランティ
演出家ラディスラス・ショラーによると、友人であるジャン・レノが「これまでやったことのないことにぜひ挑戦して自分が書いたテキスト、自分の人生、そしてこれまでの歩みを人前で語ってみたい。1人で舞台に立ってみたい」と打ち明けた際、これほどのキャリアを築き上げてきた人物が今、一人芝居に挑もうとしている姿に多くの勇気を受け取り、その申し出を快諾したと話す。
フランス人である彼らがその創作の場に日本を選んだ理由としてはこれまで慣れ親しんだ場所、キャリアを築き上げてきた場所をあえて離れて素の自分に戻って創作をしたいという思いからだったそうだ。
2024年に東京芸術劇場で上演されたショラー演出の舞台「息子」「母」を終えた後、東京芸術劇場の制作担当の元へレノとショラーが一緒に食事をしている写真とともに「今、一緒に舞台を作ろうということになったよ」というメッセージが届いたことから実現へと走り出したという今回の日本での世界初演企画「らくだ」。ジャン・レノ自身が歌う8曲のライブ歌唱も大いに注目されるところだが、その中味は多くのユーモア、笑い、そして涙が詰まったひとりの男の人生ものがたりだという。東京公演の後は日本全国11カ所のツアーが控えており、その後はさらに国外展開も視野に入れているという「らくだ」。記者からは立て続けに質問が飛んだ。

ショラーさんはこれまで東京芸術劇場で日本の名だたる名優、橋爪功さんや若村麻由美さん、岡本健一、岡本圭人さんらとお仕事をしてきました。今回はフランス人の俳優、ミュージシャンとのクリエーションですがそこに何か違いはありますか。
ショラー:「今回、俳優、ミュージシャンはフランス人ですが、スタッフは日本人です。これまでの私の日本での経験から、この素晴らしい日本のスタッフと創作する機会をジャンに提供することが出来るのをとても嬉しく思っています。」
レノ:「これまでの人生の歩みを舞台化したいという思いがありました。普段は俳優として演技をしているわけですが、当然のことながらそのキャラクターは私ではありません。そこでまず、私のこれまでの歩みを私の6人の子供達に伝えたいという欲求がありました。と言うのも、私自身は祖父母のことを知らないからです。25年の間、長く関わってきた大好きな日本で“私は何者なのか”“どこから来たのか”ということを皆さんにお伝えしたいと考えました。つまりポスターの中にいる俳優の私ではなく人間としての私自身はある意味で皆さんに近い存在であるのです。人間としての私をお見せしたいと願っているのです。3年前にチャリティー絡みで日本に来る機会があったのですが、その時にこの舞台のクリエーションは日本でやろうと決めました。」
レノさん自身、祖父母のことを知らないとおっしゃいましたがそれは何故ですか。
「フランコ政権を嫌い亡命した私のスペイン人の父がとても寡黙な人で私に過去のことを語ってくれるようなことがあまりありませんでした。なので、従姉妹をつかまえては色々なことを聞きだしたり、古い写真を見せてもらったりする中で、祖父母はアンダルシアで貴族の馬の世話をしていたということを知りました。それが5〜6年前のことで、今回の「らくだ」の創作のもとの一つになっています。」
「らくだ」というタイトルにしたのはなぜですか。
レノ:「俳優としてさまざまな動物と共演はしてきました。そこで自分はどんな動物なのだろうか、自分の内にある動物はと考えた時、はっきりと“らくだ”だと思ったのです。人を、荷物を、そして苦しみや孤独を運ぶ、そしてゆっくり歩く“らくだ”だと思いました。」

ジャン・レノ
自分を演じることの難しさについてはどう感じていますか。
レノ:「演出家のラディスラスが自分にとっての鏡になってくれています。ストーリーをただ語るだけでなく、その中の人物にならなければならないのだとアドバイスしてくれました。自分で書いたテキストなので常に改稿したくなるのですが、それよりもそこにあるテキストに自分がなっていくことが大事なのだと言ってくれました。彼は私をたんなる俳優なのか、あるいはそこで語られていることを生きた人なのか、というところを超えたまた別のところへ連れていってくれる人なのです。」
そこでショラーが彼のコメントを受け、
ショラー:「ジャン・レノは複数形のジャンを演じています。7歳の時の彼、10代の時の彼、映画で演じることを夢見ている若い時の彼、そしてその合間合間に今の彼になってそれらにコメントしたりしています。彼の人生を語るという今回の舞台ですが、漫画のようなイメージあり、音楽あり、歌あり、エピソードも過去のものから現在の彼の言葉までバラエティに富んでいてちょっとしたミュージカルのような舞台になっています。」
長い人生においての題材選びは難しかったのではないでしょうか。
レノ:「執筆のきっかけとなった一つのシンボルがバルコニーです。私が7歳の頃モロッコのカサブランカで母親とバルコニーから道行く人たちを眺めていた際に母親が「あそこを歩いているあの人の未来を当てることはできるかしら?」と尋ねたのです。そこで私は一生懸命その人を観察していたという思い出があり、それがこの芝居を書く出発点となりました。なので、今作の冒頭も7歳の私から始まります。その後にさまざまな冒険を語っていくことになります。カサブランカからヨーロッパへ、さらにアメリカ、そして世界へ進出していく様を率直に、嘘をつかずに語るように心がけました。私自身の喜びや苦しみを切りとっていますが、そのほかにも人生における出会い、出会った人々のことも切りとっています。」
長年にわたって変わることのない日本での温かい歓待に感謝し、日本好きを明言するジャン・レノの人生ということで日本でのエピソードも含まれるという「らくだ」。世界で活躍する著名俳優のその原点と言えるものがたりをご本人の語りと歌で表現する舞台で味わってみて欲しい。
「らくだ」
東京公演:
2026年5月10日(日)〜24日(日)
東京芸術劇場 シアターウェスト
その後、富山・兵庫・宮城・石川・高知・福岡・山口・京都・愛知・岡山で全国公演
詳細:https://www.jeanreno-rakuda.jp/
