演劇と同時に観光を楽しむフェスティバル「豊岡演劇祭2025」

東京の演劇祭を紹介したところで、今回は関西の演劇祭を紹介しよう。

2020年に始まり、関西地区の人々のみならず、関東、東京から、さらに近年は海外からの参加も増えてきているという「豊岡演劇祭」。

人気の温泉地、城崎温泉をはじめ、今年は新たに日本海に面した北部の温泉地、新温泉が加わり、兵庫県北部但馬地域の11エリア(城崎、豊岡、江原、神鍋、竹野、但東、出石、朝来、養父、香美、新温泉町)で9月11日(木曜日)~23日(火曜日・祝日)に開催される。

フェスティバルディレクター平田オリザが選んだ10演目、演劇祭がプロデュースする12演目、140を超える応募の中から選ばれた28のフリンジセレクション、複数の団体が短編を連続上演するフリンジショーケース、大道芸や音楽などのフリンジストリート、国際交流、地域交流プログラムなど約85演目がラインアップにあがっている。

今年のテーマは「演、縁、宴」。演劇や観劇に通じる「演」、思いがけず人が触れ合う「縁」、出会った人と食卓を囲む「宴」と作品上演だけでなく、さまざまな「えん」を通して多くの人々の出会い、交流、を仕掛けていきたいと演劇祭主催者側は話す。

その一環として、登録制で誰でも参加可能な、地元団体によるイベントやショップが展開される「寄りんせぇプログラム」、アーティスト、観客、地域を繋ぐための活動を行う「ボランティアサポーター」をさらに充実させていくと言う。

また、昨今の潮流を受け、今年は特に国際性を強化してインバウンド観光客を呼び込むよう務め、海外ゲストを多く受け入れるようなプログラムを用意しているということだった。

6月に行われた「豊岡演劇祭2025」記者会見でフェスティバルディレクターの平田オリザは豊岡演劇祭が目指すところをこのように語った。

「今年は一つ一つの演目に強い集客力のあるものを選びました。その演目を観るために演劇祭を訪れるといったキラーコンテンツを揃え、それによってもう一度関西圏、日本全国、あるいは海外の演劇ファンの人たちに実際にこの場所(但馬)に足を運んでもらうことを目指しました。

世界の最先端の演劇を招いて紹介するというよりは見本市的な役割を果たし、特にアジアのプロデューサーたちに多く来てもらえるようなフリンジ型の演劇祭を目指していきたいと思っています。

「より一層、但馬地域の演劇祭だということを打ち出していきたいと思っています。但馬の名産品の販売とか、地産品のマーケットなどを活性化していきたいです。豊岡演劇祭の他の演劇祭とは違った大きな特徴は、観光と密接に結びついているという点です。アートを使って、但馬に多くの方に訪れていただき、但馬の魅力を知っていただき、演劇祭以外の時にもまた訪れたくなるような演劇祭を思い描いてきました。この演劇祭の期間中に但馬の魅力を多く発見していただけるような演劇祭を目指したいと思っています。

「もう一つの特徴としては演劇やダンスに特化した大学があるということと豊岡市内の31の全ての小中学校で演劇教育をおこなっているという、先進的な試みを行なっているところです。一過性のイベントではなく、土壌をきちんと作りながら演劇祭を行なっているというところが私たちの強みであろうと思います。大学、演劇教育、観光、そして演劇祭といったいろいろな歯車が少しずつ回り始め、徐々に回転の加速度がつき始め、いよいよ本格的に回っていく最初の年になるのではないかと思っています。」

ディレクターズプログラム (平田がキュレーションをした10作品)

(1)『魔法使いの弟子たちの美しくて馬鹿げたシナリオ』

松原俊太郎(作)×小野彩加・中澤陽 — スペースノットブランク(演出)

2019年、「山山」で第63回岸田國士戯曲賞を受賞した松原俊太郎と小野彩加・中澤陽 — スペースノットブランクによる第6回目のコラボレーション作品。

© Dan Bellman

(2) 『黄色の森』

河合穂高(作)×下鴨車窓(演出)

歯科医師であり口腔病理学研究者という肩書きを持つ河合穂高の2022年にせんだい短編戯曲賞を受賞した戯曲「黄色の森」を劇団下鴨車窓の田辺剛が演出。これが世界初演となる。

(3) 『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』

岡田利規(作・演出)

世界をまたにかけ活動をしているチェルフィッチュ主宰岡田利規が2023年に発表した日本語を母語としない俳優たちによる日本語台詞劇「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」が豊岡演劇祭に登場。今作品は中国、ベルギー、韓国、フランスなど海外でも上演されていて、世界で好評を博している。

©前澤秀登

2023年の初演時に行った岡田利規へのインタビュー↓

(4) 舞踏 但馬風土記『城嵜霊湯縁起(きのさきれいとうえんぎ)』

田村一行/大駱駝艦 + 豊岡市民舞踏団「但馬鸛鵲楼」

振付・演出・美術 田村一行

舞踏カンパニー大駱駝艦の田村一行が地域の風土からインスピレーションを受け創作した舞踏作品。2017年から田村のもとで舞踏を続け、2022年に旗揚げした豊岡を拠点とする豊岡市民舞踏団、但馬鸛鵲楼と大駱駝艦メンバーが共演する。特別ゲストとして麿赤兒の出演が決まっている。

(5) シアターオペラ『その星には音がない―時計仕掛けの宇宙―』

平田オリザ(脚本・演出) 中堀海都(作曲・指揮)

平田オリザと中堀海都によるシアターオペラ第2弾。最新の立体音響技術を用いて、平田の現代口語演劇とニューヨークを拠点に活動をする作曲家中堀海都のヴォカリーズ(歌詞を伴わず、声のみを使う歌唱法)による現代音楽アリアが交互に展開する多次元的空間を表現。現代演劇、現代音楽、現代アートが融合する総合芸術作品を目指す。

©︎igaki photo studio

(6) 『誠實浴池 せいじつよくじょう』

王嘉明/Shakespeare’s Wild Sisters Group ✕ タニノクロウ/庭劇団ペニノ

台湾の気鋭の劇作家、演出家の王嘉明(ワン・チャンミン)と世界で注目される劇作家、演出家、庭劇団ペニノ主宰のタニノクロウが共同で執筆、演出をした舞台。川端康成の「眠れる美女」をモチーフにした今作は2024年4月に台湾台北国立劇場で世界初演され、これが日本初演となる。

photo by Hsuan-Lang LIN, provided by National Theater & Concert Hall

↓2024年の初演時にタニノクロウへインタビューした記事

(7)『歌唱劇 パラダイスをくちずさむ』 野外劇

スリーピルバーグス

福原充則(作・演出) 益田トッシュ(音楽)

脚本家・演出家の福原充則を中心に立ち上がった全天候型創作ユニット、スリーピルバーグス。竹野ビーチの特設ステージで5人の演者が歌いまくる。

(8)『海のセレナーデ』

喜界島サンゴ礁科学研究所 演劇プロジェクト

劇作:宮崎玲奈 演出:山下恵実

企画ディレクション:山崎敦子(名古屋大学/喜界島サンゴ礁科学研究所)

総合プロデュース:渡邊剛(総合地球環境学研究所/北海道大学)

喜界島サンゴ礁科学研究所演劇プロジェクトは2021年9月より、喜界島サンゴ礁科学研究所に集まる研究者と青年団の共同プロジェクトとして始動し、今作が2作目となる。サンゴ礁地球環境学の研究者である渡邊剛、山崎敦子と、劇作家の宮崎玲奈、演出家の山下恵実を中心として、ヒトと自然の新たな関係性による未来集合知を探る、サイエンス×パフォーミングアーツの共創プロジェクトとなっている。

『海のセレナーデ』(2025年_金沢21世紀美術館)

(9) 『S高原から』

青年団

平田オリザ(作・演出)

平田オリザ率いる青年団の1991年初演の代表作。高原のサナトリウムの面会室で起こる、死を意識しながら生きることを問う人々たちの会話劇。

©︎igaki photo studio

(10) 『最後の芸者たち リクリエーション版』

ハイドロブラスト

演出:太田信吾、竹中香子

ハイドロブラストは映画監督・俳優の太田信吾が2019年に映像と演劇を手掛ける団体として設立。2022年より、俳優の竹中香子がプロデューサーとして加入し、ドキュメンタリー的手法をベースに、企画ごとに役割を規定し複眼的な作品創作を目指している。2022年9月の世界初演、国内ツアーを経て同年11月に韓国・ソウル、24年にフランス・パリ公演を実施。芸の伝承とは何かを問う作品のリクリエーション版。

©︎igaki photo studio

こちらの10作品の他に、演劇祭がプロデュースする地域、食、ローカル交通などとアートを掛け合わせたフェスティバルプロデュース演目がある。

開催地2か所(豊岡、江原)でフェスティバルナイトマーケットが開かれ屋台出店や大道芸などが楽しめるほか、英語リーディング公演、JR西日本観光列車「うみやまむすび」の電車内で展開する演劇公演、神社の農村歌舞伎舞台でオリジナル神楽の上演、シニアによるダンス公演、俳優・原田大二郎とミュージシャン・佐藤正治による朗読とパーカッション演奏舞台、櫓造りをみせるサーカス、​​人間が静物となるスタチューパフォーマンスキッズ向けワークショップ、俳優・小菅紘史の語りと、音楽家・中川裕貴のチェロ演奏による「山月記」の舞台化、と内容は多岐に渡っている。

城崎発演劇列車vol.5 JR西日本観光列車「うみやまむすび」 × 芸術文化観光専門職大学
©igaki photo studio  画像提供:豊岡演劇祭実行委員会
『但東さいさい』
烏丸ストロークロック × 但東の人々
© 2023 MATSUBARA YUTAKA

スタチューパフォーマンス

瀬戸内サーカスファクトリー 『Workers ワーカーズ!』
写真:宮脇慎太郎
『今日という日が一番若い日』
んまつーポス × Unlock Dancing Plaza(香港)出演:シニアパフォーマーの皆さん
photo by Nishi Junnosuke
『山月記』 小菅紘史 × 中川裕貴
photo by bozzo
『朗読とパーカッションの新世界 ~但馬の旅~』 原田大二郎 × 佐藤正治​​
photo by Tomoko Kosugi

これらの他にも140件を超える応募から選ばれたバラエティに富んだフリンジプログラムが会期中あちらこちらで上演される。

『STUDY | 修飾を歓迎する環境←→拒否する身体』
photo by 松本尚大
フリンジストリート|石水タヰキ 
photo by Yusuke Mitsuyasu

フリンジストリート|アメノシズ

『The Butterfly Project – バタフライ・プロジェクト』
photo by Jack Sain

毎年の演劇祭で目指すところへ向けて徐々に前進していきたいと語る平田はこの演劇祭の未来図をこう予想する。

「フランスのアヴィニヨンは演劇、カンヌは映画と言うように多くの観光都市が独自のアートフェスティバルを持っている中で、城崎、但馬、豊岡と言えば「演劇」と言うように、この豊岡演劇祭がこの地域がただの関西の一観光地から国際的なリゾート地に発展していく上での大きな力になるのではないかと思っています。

多くの海外のプロデューサーに温泉などの観光地があるこの土地を訪れてもらい、数多く上演されているフリンジ演目などを観て、そして参加してもらうことで日本のパフォーミングアーツの見本市となっていくことを願っています。」

国際化という面で、外国語字幕や多言語でのパンフレットなどの情報提供、学生とインバウンド観光客向けのガイドツアー、演劇祭ならではのパフォーマンスと絡めてのツアーの企画も進めているという。

「大都市、東京や京都の演劇祭とは規模は違えども、小粒だけれどオンリーワンの演劇祭を目指す」と平田が述べる豊岡演劇祭。地元を積極的にまきこんだ演劇祭が但馬地域にどのような変化をもたらすのか、演劇のまだよく知られていなかったパワーが示される時が来ている。

豊岡演劇祭2025

期間:2025年9月11日〜23日

詳細・問い合わせ:https://toyooka-theaterfestival.jp/

フェスティバルセンター営業時間 

7/25(金)~9/10(水) 12:00-18:00 (定休日:7/25~9/10までの水・木)
9/11(木)~9/23(火・祝) 10:00-18:00 (会期中無休)

℡ 0796-34-9525