NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)の今がわかる5作品を上演するNDTプレミアム・ジャパン・ツアー

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(c) Tatsuo Nambu

左→右 高浦幸乃、Emily Molnar、唐津絵理

6月28日、5年ぶりの来日となったNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)のジャパンツアーに関しての会見がオランダ王国大使館で開催され、梅雨の合間の晴天のもと、多くのダンスメディア関係者が詰めかけNDTの注目度の高さを証明した。

すでに終了した高崎芸術劇場(6月30日)に続いての7月5日、6日の神奈川県民ホール、7月12日、13日の愛知県芸術劇場、全部で5公演が行われる。

冒頭の挨拶で、1ヶ月前に来日したばかりというヒルス・ベスホー・プルッフ次期大使が

「日本文化の重要な特徴として伝統と革新の融合があると思っていて、その点はNDTにも共通していると思います。彼らはダンサーを通して、独自の経験を提供、観客の思考を促し、対話を生み出すような活動をしています」と語り、国際的に高い評価を得ているダンスカンパニーの来日にワクワクしていると笑顔を見せた。

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ヒルス・ベスホー・プルッフ次期大使の挨拶

続いてジャパンツアーの統括プロデューサーであり、横浜を拠点とするDaBY(Dance Base Yokohama)、そして愛知県芸術劇場の芸術監督である唐津絵理、2020年からNDTの芸術監督を務めるエミリー・モルナー(Emily Molnar)、NDT1所属ダンサーである高浦幸乃が今回のツアーについて、そのプログラムの特徴について述べた。

唐津はNDTと日本とのこれまでについて、

「NDTは1990年に初来日を果たした後、イリ・キリヤン(Jiri Kylian)の芸術監督時代(1975-1999)には何度も日本で行い、日本で常に大変高い人気を得ているカンパニーです。キリヤン引退後はしばらく訪日公演が途絶えていましたが、2019年に13年ぶりの来日公演を果たし当時の芸術監督ポール・ライトフット(Paul Lightfoot)、ソル・レオン(Sol León)らの作品を上演し、常にコンテンポラリーな作品を生み出してきたNDTの革新性、そしてダンサーたちの素晴らしい技術と表現力を再発見することとなった公演となりました」と振り返り、

「今回、世界最先端の振付家たちとNDTのダンサーたちが作り出した素晴らしい作品を少しでも多く日本の皆様にお届けしたいという思いから5つの全く異なる作品を3作品ずつ日替わりで3つの会場で上演するということにしました。この変則のプログラムは日本だけの特別なものです」と今回の“プレミアム・ジャパン・ツアー”の意図について語った。

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高浦幸乃、唐津絵理、山田カイル(通訳)

NDTの芸術監督であるモルナーは

「今回のプログラムはNDTの芸術的なビジョンを感じていただけるものになっています。NDTの多様で革新的な精神を感じていただける5作品を選びました。どの作品もNDT1のために作られたものでダンサーたちの技巧、その表現の幅の広さを見ていただけると思いますし、また世界中で絶え間なく進化を遂げているコンテンポラリーダンスの現状、そして世界で評価の高い振付家たちの作品をみていただけると思います」と今回の企画の趣旨を説明。それに続いて5つの作品を紹介してくれた。

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Emily Molnar

  • 「Jakie」byシャロン・エイアールSharon Eyal & ガイ・バハール Gai Behar

2023年世界初演。長年の共同創作者であるオリ・リヒティクの音楽に彩られた作品で、官能的なものと未知なるものが融合する空間を感じることが出来る。演劇的技巧、催眠術の技巧を取り入れている。

  • 「One Flat Thing, reproduced」by ウィリアム・フォーサイス William Forsythe

2000年世界初演。フォーサイスが長年取り組んでいる構造的基盤に焦点をあてた作品で彼の代表作の一つ。複数の規則に基づいて、ダンサーはランダムに出入りしながら休みなく踊り続ける。

(3)「Solo Echo」by クリスタル・パイト Crystal Pite

2012年世界初演。降りしきる雪を背景に一人の人生を複数の視点から見て描いている。ブラームスのチェロとピアノソナタの2曲にあわせて踊られる今作は青年期の成長から始まり、人生の旅路を眺めていくという内容になっている。

(4) 「La Ruta」by ガブリエラ・カリーソGabriela Carrizo

2022年世界初演。時空間が宙吊りになった映画的世界が繰り広げられる、人々の想像力の限界に挑んだ作品で英国のオリヴィエ賞を受賞している。侍のようなキャラクターも登場し、日本のホラーを彷彿とさせる。

(5)「I love you, ghosts」by マルコ・ゲッケ Marco Goecke

2022年世界初演。豊かな情感をもった作品で、記憶や喪失といったテーマを扱っている。ゲッケ特有の激しく繊細な動き、そして強い感情が特徴。NDTがかつて拠点としていたルーセント・ダンス・シアター面影をとらえた作品。

一人の振付家の作品を上演していくのではなく*、様々なジャンルの振付家を世界中から招いて作品提供を依頼している今日のNDTのあり方について、その必要性をモルナーはこう話す。

「カンパニーとして私たちがやっていることはまず身体表現、それが重要なんです。いろいろな振付家を招いていますが、みなそれぞれにどんな身体表現が可能かとリサーチをしているんです。

「NDTのアイデンティティーとしては一人の特定の振付家の作品を発信していくことではなくて、ダンサーたちの技巧、その表現の幅の広さであると思っています。もちろんバランスを考えて、イリ・キリヤンの作品は毎シーズン上演しています。それと並行して次のキリヤンを探すということやっているのです。」

*イリ・キリヤンの時代には作品の多くがキリヤンの創作だった。

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高浦幸乃

今回、来日ダンサーの中で唯一、全作品に登場するという高浦は2020年以降のモルナー体制下での新しいNDTについて、

「エミリーさんが芸術監督になられてからは、スタジオでの作品作りの中で、個々のダンサーたちはその作品にどのように関わっていくのかということをすごく重要視しています。そのアイディアが公演中にも私たちの頭の中にあるので、出来上がっている作品を毎回同じように踊るのではなく、その作品をステージ上でもリサーチし続けるということがパフォーマンスには必要なのだということを意識しながら踊っています」と話し、

「今回の公演で3作品を続けて踊るのはとても大変なのですが、それぞれの作品ごとに切り替えて集中して踊るつもりです。みなさん、ぜひ劇場に足を運んで下さい」と呼びかけた。

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NDTプレミアム・ジャパン・ツアー2024

7月5日(金)19時/6日(土)14時 神奈川県民ホール 大ホール (神奈川県横浜市)
7月12日(金)19時/13日(土)14時 愛知県芸術劇場 大ホール (愛知県名古屋市)

詳細: https://ndt2024.jp.dancebase.yokohama/