The Telegraph紙より抜粋
シェイクスピア生誕の地として多くの人が訪れるStratford-upon-Avonのシェイクスピア劇を上演するRoyal Shakespeare Company( RSC)の現芸術監督Gregory Doran(グレゴリー・ドーラン)が驚くべき事実を明かしてくれた。RSCの前身であるShakespeare Memorial Theatreが開場した1897年からこのかた、英国中部ウォリックシャーにある劇場では毎年ずっとシェイクスピア劇を上演し続け、中断されたのは世界大戦(WW1)の最後の2年間だけだったと言うのだ。
「1926年に火災で建物が消失した時でさえ、地元の図書館に場所を移して、その後1932年に再建した劇場をオープンするまで上演を続けたんだ。第二次世界大戦下でも扉は閉められなかった。2007~10年にRSCを改修した際にはCourtyard劇場を近くの場所に建設して変わらず上演を続けたんだ。」とドーランは話す。
しかしながら今回のCOVID-19によりその劇場が3月中旬から閉められている。ドーランにも今後の見通しについてはまだわからないと言う。この異常事態により例年のロンドン、バービカン劇場での冬のシーズンは行わないことが決まった。それにより、ドーランが共同演出に当たるヘンリー六世三部作のうちの二部の上演も来年、おそらくは秋ということで延期が決定した。
しかし悪いニュースばかりでもない。この夏に上演を予定していた2作品「冬物語」と「間違いの喜劇」を状況が許せばこの秋に上演する予定だと言う。
RSCのエクゼクティブ・ダイレクターCatherine Mallyon (キャスリーン・マリオン)は「こんな時だからこそオプティミズムが重要だと思います。我々の観客たちに、暗いトンネルの先には明かりが灯っていて我々はそれに向かって着実に進んでいるんだ、という事を感じ取ってもらうためにも。」と話す。
「「冬物語」の美術装置の半分は劇場内に、あとの半分は外のトラックの中にある状態です。いつでもやれる準備は出来ていますよ。」とマリオンは言う。
政府が示した上演基準が厳しい-例えば2Mのソーシャルディスタンスを満たさなければならない、とか—ため、屋外での上演もままならない状況だが、それでも何かやれることはあるはずだと二人は話す。
「劇場を映画館にしてRSCのシェイクスピア作品の上映会を企画しているんだ。」とドーラン。「すでに全作品の3/4ぐらいは出来上がっているからちょっとしたフェスティバルみたいな形でお見せできると思う。」
7月から施行される大型シネマの基準に準じる上映形態で、チケットを販売して行う予定だと言う。「細かい点については今検討中—例えば家族連が隣同士の席で鑑賞できるかどうか、など—だけど、我々のお客様たちがまた劇場へ足を運ぶようになるきっかけになってくれればと思っているんだ。」とドーランは話す。
実のところRSCの主なお客様は半径50マイル(約80km)内からやって来る人たちで海外からの観光客で劇を観る人達は全体の10%にすぎない。1/3の観客が海外ツーリストであるロンドンのグローブ座とは事情が違うのだ。そのグローブ座は公的資金援助を受けていないということもあり、今回のパンデミックの影響で存続の危機に瀕していると窮状を訴えている。それに対してエリザベス女王がパトロンで名を連ね、チャールズ皇太子が団体のトップであるRSCは年間で20億円の助成金を受けているのですぐに存続に影響するということは少なくともなさそうだ。スタッフの9割が(給料の保証付)自宅待機状態で、給料2~3割カットの状態で自粛していると言う。先日政府が職を確保しその分の給料保証をするのは10月末までだと発表したが、その後に実際に劇場が再開するまでのスタッフの生活費保証は今のところ見込めないでいる。
マリオン曰く「とても厳しい状況です。政府の給料保証制度が止まってしまったら、劇場運営を続けていくのに1億4千万近くのお金が毎月かかってくるからです。」
地方劇場の現状は厳しいと言わざるを得ない。RSCは11のアソシエート・パートナー劇場の他にも多くの地方劇場と様々な関わりを持っている。そのため「地方劇場は本当に大変な状況だと思う」とドーランは心配する。このロックダウンの期間中にRSCはそのような地方劇場と色々な魅力的なオンラインプログラムを配信してきた。そのほかにも学生や生涯教育の成人の学生たちからシェイクスピアに関する質問を受け付けて、それについて俳優やスタッフがらが答えるというプロジェクトも展開している。
この危機的状況にあってRSCに関して改めて思うことはありますか、という質問に「時々RSCは広域におけるナショナルシアターの役割を担っているんだなと感じることがあるよ」とドーラン。
1603年のペスト流行時の死者数を超えてしまったこのパンデミックの衝撃はドーランのシェイクスピアに関する認識についても変化をもたらしたようだ。
「これまで、シェイクスピアが1600年代の悲劇のどん底へと踏み込んで行ったのがペストと関連しているとは考えたことはなかった。例えば、その時代の不安感やモラルの喪失などは1605年の火薬陰謀事件(The Gunpowder Plot)などの当時の政治状況に関連しているのだと思ってきたけれど、今ではそれがペストの流行に大いに起因しているのだと確信しているよ。」
ペストは当時13ヶ月間に渡って劇場の扉を閉ざした。同じような時間がかかるのかどうかは定かではないが、ドーランは今回の出来事によるシェイクスピア演劇上演へのダメージ心配している。それでも「シェイクスピアをインスピレーションの源、また我々を元気づけるパワーの源として彼の作品を大切に上演していくことこそが今とても大切なのだと痛感している」とドーランは結んだ。