座・高円寺がシライケイタ新芸術監督のもとで新たな船出

昨年、全国でも珍しいケースとして公募で芸術監督を募集した杉並区の公共劇場、座・高円寺。

4月1日に開催された2024年度のプログラム説明会の冒頭で、2023年7月に芸術監督に就任したシライケイタが劇場施設竣工前から同役職を16年間勤めてきた初代芸術監督佐藤信から引き継いだ座・高円寺をどのように導いていこうと考えているのか、目指していく方向性を明示した。

応募の際に「いろいろな人が育っていく、そして子供達が集まってくる間口の広い劇場にしていきたい」と話したと語るシライは就任から8ヶ月が経ち、座・高円寺ではそのような活動をすでにさまざまな形で実践していることに気がついた、と話す。

「前芸術監督が打ち出してきた“劇場は広場である”という方針に従い劇場スタッフが一丸となって築き上げてきた、この劇場の財産だと思っています。」

例えば、劇場内にある阿波踊りホール(高円寺は徳島市(徳島)、南越谷市(埼玉)と並んで日本三代阿波踊りの場所として有名)は平日夜7〜10時、週末は午後から、阿波踊りの練習場となっていて、連日多くの人々が練習のため劇場を訪れる。

年中営業しているカフェが劇場2階にあり、さらに月1回、第3土曜日に劇場前広場に出現するマーケット、頻繁に開催される子供向けのワークショップ、と演劇公演とは直接関わりのない地域住民、市民が劇場に通って来ているのを目にし、まさに街の広場として大いに活用されていることを知ったと言うシライ。

演劇公演に関しても座・高円寺では1階の座・高円寺1で主催、提携公演、そして劇作家協会のプログラムを上演する一方で、地下2階にある座・高円寺2の劇場スペースは杉並区のHPから申し込みをした人が早いもの勝ちで誰でも借りられる、他ではあまり例をみない、多くの人に開かれたユニークなシステムをとっていると話す。

続けて、座・高円寺のユニークな点として、レパートリーシステムの充実を挙げた。

「日本の演劇事情では新作を作り続けることが大前提とされていて、基本的に再演舞台に助成金が支払われることはほとんどありません。そんな現状に一石を投じるように、優れた作品は何度でも上演するということを実現しているこの劇場の利点を継続していきたい、と考えています。

「そしてこれらの特徴を踏まえて、私がこれからこの劇場をどのようにしていきたいのか、何を継続していくつもりなのかについてお話ししたいと思います。継続していきたいことは、今お話しした全てです。例えば地域密着型で子供や親子が集まってくる場所、そしてレパートリーを充実させていくということです。」

このように話した後、新芸術監督は以下の4点を今後の目指すところとして挙げた。

(1)これまでの人々が集まる広場から発展させて、「集まった人たちと共に生き育む場所としての広場」を目指す。多様性(diversity)から共生(coexist)へ。集まるだけでなく、集まった人たちと手を取り合って創作をしていく。

その際にあらゆる人を対象とし、第一に杉並区民、そして(人種やジェンダー、障害の有無の面で)マイノリティーの人々、さらに言えば、得に若手のアーティストたちの育成に力を入れていきたいと考えている。全ての人が集まって、活躍できる場となっていきたい。

(2)広く開いた劇場から遠くへ届く劇場へ。

広く開いた劇場という面で言えば、かなり高い精度で実現できているので、これからはそれ、つまりこの劇場の活動をより多くの人に知ってもらいたいと考えている。

具体的に言うと、より多くの人材と出会うため、より多くの人に劇場に関心を持ってもらうために、これからは積極的にオーディションを開催していきたい。

一つの作品を作る過程で、より多くの人に関わってもらいたい。そしてより長い時間をかけて作品を作っていきたい。

ここ杉並から世界に通じるクオリティーの高い作品を生み出していきたいと思っている。

例えば、新作を上演する際に作家が書いたものをいきなり舞台にのせるのではなく、第一稿があがった段階でまずリーディング公演を行う。その際に、その場に杉並区民の方々を招き自由に意見を出してもらい、その意見をもとに作家は戯曲のブラッシュアップをしていく。そのブラッシュアップのためのリーディング公演を行なっていきたいと思っている。そのためには本公演の1年ぐらい前までに第一稿をあげなければならないのでなかなか難しいことではあるのだが、ぜひ実現したい。

さらに、主催公演の稽古場の様子を区民に見てもらいたい

と言うのも、少しでも区民の皆様にどのように演劇が作られているのかを知ってもらいたいのと、見学したあとに積極的に周りの人たちに「面白そうだよ」と知らせてほしいから。

プレビュー公演も行い、フィードバックを寄せてもらって本公演の質をあげてもらいたい。

これらのことを区民の皆様と一緒にやっていけたら、と思っている。

(3)韓国との文化・演劇交流を推進していきたい。

これまで自分の劇団で韓国公演、ツアーなどを行なってきたという経緯もあり、これをミッションの一つに挙げた。

演劇を通しての文化交流でダイレクトに海外の人と繋がるのはとても豊かな経験だと思うので、この劇場がそんな海外との架け橋になればと考えている。

(4)この劇場に集まってきてくれた人たち、得に若い人たちの後押しになるような活動をしていきたい。

例えば、座・高円寺2で上演された作品で素晴らしいなと思ったものを次年度の提携公演に引き上げて取り上げたり、有望な若手劇団を複数年にわたってサポートしたり、といったようなことを行なっていきたい。

******************************************************************************

今後目指すところとして、作品の寿命を長いスパンで捉え、広い範囲から多くの人を劇場の活動に巻き込み、彼らと協働しながら世界へ届ける作品を作っていきたい、将来へ向けて若者をサポートしていきたい、と語る芸術監督。芸術監督制度の歴史が浅い日本にあって、海外、とくに西洋の(公共)劇場が実践しているような“公共性”“地域密着”を意識した目標設定は慣例とされてきた日本の劇場のシステムに一石を投じるものとなり得るかもしれない。

座・高円寺の新たな試みを期待を持って見届けていきたい。

https://za-koenji.jp/home/index.php

シライケイタ芸術監督