
(c) Nobuko Tanaka
演劇ゴーアーズの間で“劇チョコ”の通称で親しまれている劇団チョコレートケーキ。駒澤大学OBを中心に2000年に結成された劇団は今ではチケット争奪戦必至の人気劇団へと成長。ナチスドイツの興隆の内幕、1911年の大逆事件、1972年の連合赤軍事件、大正天皇の生涯、第二次世界大戦末期の沖縄戦など歴史や社会的事件・事象を題材にした作品で多くの固定ファン、特にあまり劇場で見かけることのなかった男性観客の支持を多く得ている。
劇団員古川健による戯曲を同じく劇団創設メンバーの日澤雄介が演出を担うスタイルで毎年新作を発表し続けていて、読売演劇大賞、CoRich舞台芸術アワード、鶴屋南北戯曲賞など、名のある演劇賞の常連として多く名を連ねている。
今回の新作「三人の密偵」では、1928年6月4日に起きた「張作霖爆殺事件」*を取り上げ、その事件に違った立場で関わった兄弟(異母兄弟含む)—日本陸軍参謀本部中佐(岡本篤)、満州・関東軍の諜報員(浅井伸治)、中国国民党・蒋介石の諜報員(西尾友樹)— それぞれが考える平和な未来への策略、自身の案を遂行するための兄弟間のやりとりを描いている。三兄弟のうちの二人が交わす会話劇を3本という形で上演。観客は70分の小作品を別個に観劇、もしくは通しで3本観る形を選べるようになっている。
Jstages.comでは稽古も佳境に入った新宿のサンモールスタジオ劇場近くの稽古場を訪ね、作家古川健と演出日澤雄介の二人に「三人の密偵」について、さらには劇団結成25年の現況、それぞれの活動について、色々と話を聞いた。
*張作霖爆殺事件— 日本の関東軍が中国東北部を拠点とした奉天軍閥の指導者張作霖を爆殺した事件。満州における日本の勢力拡大を目的としたもので、これを機に南満州を占領しようと企んだ。



劇チョコブームを引き起こし、継続してきた過去10年間の活動、成果をどのように受け止めていますか。
日澤:大きな目標を掲げてきたと言うよりも、毎回“今回は何をやろうか”と劇団内で話し合いながら進めてきた結果として今があると思っています。とは言え、“社会と繋がっていきたい”という思いは常々持っていたので、コロナ禍にも何かやらなければと思い、無料で映像配信をしたり、若者の支援などをしました。演劇に限らず、われわれが社会へ向けて出来ることを探し続けた10年間だったなと思います。
あとは自分が職業として演劇に関わることが、ある種形になった10年だったと感じています。
コロナの時にエンターテイメント不要不急論が出ていました。僕としてはそれに強く反論する意識はなく、食べることや生活することの方が優先されるだろうとは思います。ただ、エンタメやアートがあった方が絶対的に人生は豊かになるだろうとは思います。
古川:自分の中で第二次世界大戦の日本のことを書こうとはっきりと目的として思い続けた10年間でした。その途中でコロナ禍があって、そうなるとそれまで見えていなかった、例えばオリンピック関連のことなどが見えてきました。やはりそこでも戦争と関連づけて物事を見てしまうのですが、日本の意思決定の不透明さ、意味のわからなさ、日本人の国民性などといったところに前の戦争につながるものを感じてそれをどうしていけば良いのかを考え続けている今という感じです。
戦後70年の時期、今から10年ぐらい前に戦争のことを考え始めました。確実に実体験として戦争を語る人がいなくなってくるということに危機感を持ったからです。知らないから書けないということでは、戦争体験を作品にしてこられた先輩方に申し訳がたたないと思いました。実体験ではないなりに、知らないなりに戦争を描いていきたいなと思ったのが出発点でした。
劇団だけでなく、それぞれに外部での活動も増えてきた10年間だったと思うのですが、その活動の中で見えてきたこと、刺激を受けた人などはいますか。
日澤:小劇場でずっと仕事をしてきた演出家だったので、大きい規模の公演に関わってみて気づいたことなどは多かったです。商業演劇というくくりではじいていたところがあったのですが、見せ方の大きさとか商業演劇なりの良さがあることがわかり、また小劇場に戻ってきた時に使えることがたくさんあったというのが大きな収穫でした。それは技術的なことというよりも、考え方での影響が大きかったです。
小劇場で作品を創るとなると、距離が近いということもあるのですが一体感を求めることになるので、見せものにするというよりはすごく生々しいものをあまり手を加えずに出すというのが良いと思っていました。それと比べると大きな劇場の作品は完全に作り込んでいきます。その作り込むという作業に関してはお客様がどう楽しむか、その楽しみをどうやって提供していくのかに特化しています。例えば、俳優生理としてはこの角度に居るけれど、その角度だとお客様からは見えない、ならば生理よりも角度を変えましょうということになります。あと、見えないのなら、その代わり、または見えないからこその効果、照明、音、美術なりを足していくということも考えていきます。本当にあらゆる角度から考えられているなと感心しました。演出のあなたがやりたいことは分かるけれど、それだとお客様には伝わらないよ、ということをきちんとチームで話し合っていく中で、色々と学ばせていただきました。
あとは芸能の世界でしっかり一線で活躍し、残っている方は皆さん人が良い、あらゆる面で視野も広いし気遣いも素晴らしいということを実感しました。
古川:私のように戯曲の執筆しかしない立場からすると、演出家さんとの出会いというのは本当に宝なのです。その意味では出会った全ての演出家、カンパニーに感謝しかないです。本当に人によって、カンパニーによっても違うのでとても刺激になりました。その中であえて名前を挙げるとしたら、演出家の鵜山仁さん*のダイナミズム、良い意味での乱暴さのある手腕に刺激を受けました。外で書くと自分が何を求められているのかというのもわかりますね。何でもよいということはほぼないので、初めにテーマのリクエストがあるか、演出家やプロデューサーと話しながら方向性をつめていくことになります。
*「眞理の勇氣~戸坂潤と唯物論研究会』(青年劇場制作 2022年初演)
「失敗の研究―ノモンハン1939」(青年劇場制作 2024年初演)
つい先日、トー横キッズを題材とした舞台「Too Young」が幕を閉じました。歴史や戦争ものと違った題材にお二人が関わったのが珍しいと感じたのですが、いかがでしたか。
日澤:もともと制作のワタナベエンターテインメントさんとの話し合いから決めた題材だったのですが、劇団でやっているようなものとは違うもの、基本的には劇団のカラーが出ないような作品にチャレンジしましょうということになりました。
賛否両方のある反応でしたね。主演俳優の宮﨑秋人さんのファンの方が大勢観に来てくださったのですが、アンケートで「10回観ました」とか深く分析してくださっている方とかがいて驚きました。(演劇の)入り口をきちんと準備してそこに来ていただければ、これまで演劇に興味がなかった人たちにもアプローチできるのだなと感じました。これをきっかけに劇場通いが彼女たちの趣味の一つに加わるかもしれませんから。
2014年のThe Japan Timesのインタビューの際に古川さんは「日本は隣国と友好関係を保持していかなければならないと思い続けているのですが状況は悪化するばかりです」と語っていました。今回の「三人の密偵」の話はかなり前から温めていたテーマなのでしょうか。
古川:いいえ、そうでもないです。ただ、日本の戦争ものを書いていくにあたり、どこから始まったのかを考えた時に、この大陸進出の大きな契機となった「張作霖爆殺事件」は一つ面白いトピックだなとは思っていたので、そこを改めて探ってみるのも良いかなと思いました。
今回、2人芝居を三部作で上演するというスタイルに関してはお二人で決めたのですか。
日澤:劇団で話しあって決めました。最近、再演が続いていたので新作をやりたいということになりまして、それだったら劇団員だけで、2人芝居を3本連作ではどうだろうという流れになりました。
このところ日中関係の悪化がトップニュースになっています。このタイミングをどう感じていますか。
古川:結局、平和は努力をしないと続かないもので、自然状態だとだんだん人間は仲が悪くなっていくのかもしれないというのを今、新ためて思っています。以前は“本来人間は平和を愛するものだ”というのを信じていたところもあったのですが、この10年ぐらいで大分信じられなくなってきました。それでも我々は平和を守りたい、平和な世界で生きたいからこそ考えていかなければいけないなと思いながら書きました。登場人物たちは誰も日本と中国が仲悪くなることを望んではいないのですが、結果としてはその方向に進んでしまう、どうにも歴史はそのように動いてしまうといった歴史の流れと個人の思いの齟齬が浮き彫りになったら面白いのかなと思っています。
本当は一人一人がちゃんと自分の頭で考えたら、と願います。そこの部分で僕は人間を信じたい、戦争より平和の方が良いに決まっていると皆が言うと信じています。ただ日々の生活に追われ疲れてしまって、大きな声に流されてしまうところが危うさだと思います。それでも我々は今を生きているので、今我々が立っているところがどういうところなのかということを考えながら過ごさなければならないのでは、というところがこの舞台で伝われば良いと思っています。
2人芝居の3本立ての今作、演出家としてはどうですか。
日澤:大変ですね。それぞれ俳優の組み合わせが違えども、同じ雰囲気の3本になりかねないというのと、その上でお客様には楽しんでもらいたいというところで日々考えながら演出しています。3本立てですが、1本だけ観るという人もいるので、単独でも完結させなければいけないし、3本観たら続いていなければならない。最初の頃は1本だけ観る人の満足感を考えていたのですが、作品が出来上がってくると3本似てきているかなというのが気になっています。なので、今は色を変えていかなければと思っているところです。兄弟間のズレと日本と中国の間のズレ、それらが今の感覚とどうつながっていくのかといった大きな枠をどう創るのかを模索しています。
この作品当時の中国史が本当にわかりにくいので、その情報をどうやってお客様に届けるか、知らない人に芝居としてどう伝えるのかというのが課題になっています。例えば、張作霖、蒋介石、毛沢東、三者の関わりがわかっている人とそうでない人がいるので、彼らが話に出てきた時にどっちがどっち側なのか、みたいなことを兄弟の口ぶりや声のトーンとかでわかってもらうようにと俳優には伝えています。あと例えば、台詞の「南に行く」という意味が古川君はわかるけれど僕はわからなかったりするので、その意味を稽古場で話し合ったりしています。僕はわからない側代表なので(笑)。
情報が多い作品はそのあたりをきちんとやらないとどうしても迷子になるし、逆に古川君のその情報が欲しいと思っている情報マニアの方々にとっては戯曲の情報がごちそうなので、そこをおざなりには出来ませんし。
そのあたりを考慮して、それでも難しい場合には横にいる作者に言葉や表現を変えてもらったりもしています。
劇中で父親からの教え“兄弟仲良く”を生きていくための指針としている三兄弟なのに、それに違って、それぞれの運命を辿ることになります。
古川:友好って口にするのは簡単ですがそれを違う立場の者同士が実行するのが如何に難しいかということがこの3本通してのテーマだと思っていて、だからこそお客様には言葉にするだけでなく一歩踏み出すことから全ては始まるのだということを持ち帰ってもらいたいと思っています。

(c) Nobuko Tanaka
最後に、個人的に、そして劇団として今後チャレンジしてみたいことを教えてもらえますか。
日澤:個人としては色々な現場を健やかにこなしていきたい、様々な良い作品に出会っていけたら良いなと思っています。
劇団としては、新しいことにトライしていきたいとは思っているのですが、その新しいものが何なのかが僕としては見えづらくなっているのかなと感じています。個人的には作品を作っていくことにちょっとした停滞感を感じていて、それをどうにかする今後5年間になるかなと思っています。例えば、少し大きな劇場に段階的にトライしていくとか。地方ではありますが、これまで東京で400席キャパの劇場で公演をしたことがないので、そこに耐えうる作品づくりとは、ということを考えたりしています。何か新しいコンセプトをとも思っていて、例えば、10年かけて1年1本の連ドラみたいなもの、とか(笑)、楽しそうですよね。
古川:10年かけて完結なんてそんな長いスパンで戯曲の構想をたてたことはないですが、皆なで一緒に考えてくれたら楽しいし、出来なくもないかなと。(笑)
日頃気になることをトピックスとして溜めていて、企画を考えるときにその中からちょっとずつ取り出して、最終的には自分のセンスでテーマを決めているのですが、だからこそ自分ではないところからきたものにもチャレンジしてみたいかなとは思っています。さすがに頼んでくる人もいないとは思いますが、例えばラブコメの依頼とかがあったらめちゃ面白いなと思います。個人的にはそういった幅を広げること、今やっていることの他にこれまでやったことのないことを外的要因でもってチャレンジして飛躍出来れば良いなと思っています。
「三人の密偵」—「導火線」「IGNITION」「誘爆」
公演期間:12月25日(木)〜29日(月)
劇場: サンモールスタジオ(地下鉄 丸の内線から徒歩3分)
詳細: https://www.geki-choco.com/
http://confetti-web.com/@/mittei
上演時間: 約1時間10分ずつ
