佐々木蔵之介がルーマニア、シビウ国際演劇祭で「ウォーク・オブ・フェイム」受賞の快挙

Photo TNRS: ALEXANDRU CONDURACHE

「ヨナ」舞台写真

舞台、テレビ、映画と多方面で活躍し大忙しの俳優、佐々木蔵之介がこの春、東欧で孤軍奮闘の日々を送っていたのをご存知だろうか。ルーマニア、シビウで5月21日にワールドプレミアを迎えた佐々木によるひとり芝居「ヨナ-JONAH」はその後1ヶ月の東欧ツアー(ハンガリー・ブダペスト、ルーマニア・クルージュ・ナポカ、ルーマニア・ブカレスト、モルドバ・キシナウ、ブルガリア・ソフィア)を経て最後はシビウに戻り、世界有数のシビウ国際演劇祭の目玉演目として上演され大喝采を浴びた。その結果、佐々木は演劇祭で上演された演目の中で傑出した貢献を果たしたアーティスト、俳優たちに送られる賞「ウォーク・オブ・フェイム」*を受賞、その証としてシビウの遊歩道にその名を刻んだ星のプレートが埋め込まれることとなった。

*これまで日本人では串田和美、中村勘三郎、野田秀樹、ヨシ笈田らが受賞していて、今年はビル・マーレイ、キャサリン・ターナー・アラン・プラテールなど7名がその名誉を受けた。

(c) T.MINAMOTO
(c) T.MINAMOTO

自身の名が刻まれたウォーク・オブ・フェイムの前で

7月某日、東京のルーマニア大使館で行われた東欧ツアー帰国報告記者会見に登壇した佐々木は世界の演劇界の名誉に至るまでの道中を、映像を流しながら、時に懐かしさに目を細め、時に思い出し笑いをしながら詳細に語ってくれた。

(c) Nobuko Tanaka

ルーマニア大使館での東欧ツアー帰国報告記者会見

まずは今回のひとり芝居上演に至った経緯から説明しよう。今作の演出家であるルーマニアを代表する演出家シルヴィウ・プルカレーテの名前は日本の演劇愛好家たちには馴染み深いところだろう。2013年にルーマニア・ラドゥ・スタンカ国立劇場作品である「ルル」を東京芸術劇場の舞台上に特設ステージとそれを取り囲む客席を設置して上演し、一躍その名を轟かせたプルカレーテは2017年に初めて日本人俳優たちを起用した作品シェイクスピアの「リチャード三世」を創作。2020年に「野田版真夏の夜の夢」、2022年にモリエールの「守銭奴」をやはり日本人キャストで上演しているのだが、そのうちの2作品「リチャード三世」と「守銭奴」で主役を演じたのが佐々木蔵之介だ。つまり佐々木は日本でプルカレーテの最も厚い信頼を得ている俳優の一人と言える。

そんな二人の次のステップとして、国際ツアーに出せる作品の共同制作をとなった際にプルカレーテから本作「ヨナ」の提案があり、今回の企画が実現したということだ。

「ヨナ」はルーマニアの国民的詩人マリン・ソレスク(1936-1996)が旧約聖書の聖人ヨナの逸話を題材に執筆した彼の代表作。漁師で預言者であるヨナは神の掟に背いて鯨に飲み込まれる。なんとか外に出ようともがくヨナ。恐怖、絶望、あきらめ、過去の思い出が去来する中、彼が孤独のうちで自己と対話を重ねていく哲学的示唆、そしてユーモアに富んだ物語となっている。

Photo TNRS: ALEXANDRU CONDURACHE

5月21日のワールドプレミアに向けての1ヶ月の稽古、その開始3日前、4月22日にルーマニア・シビウ入りした佐々木。

「個人旅行ではなく仕事なので、生活環境、特に食事環境を整えようと考えて、到着してまずしたことが電子レンジの購入で、ホテルの部屋に持ち込みました。

稽古初日は劇場近くの小さなスタジオで、他の人からすごく近い、狭いテーブルに皆が顔をつきあわせた初日顔合わせを行い、あ〜これはいつもの日本じゃないなとまず感じましたね。」

「現場はルーマニア語、英語、日本語、そしてフランス語が話されていて、基本は英語とフランス語でした。そのように言語が入り乱れていて通常の2倍、3倍時間がかかるので稽古時間そのものはとても短くて、でもその分集中して臨みました。そんな苦労はあっても、これこそ今、ルーマニアでしか出来ない経験だと思いながら過ごしていました。一部の劇場スタッフさんはルーマニア語しか話せないので、そこは身振り手振りでコミュニケーションをとっていましたが、それで結構いけるものなのだな、と。(笑)」

「ルーマニアへ行く前に「ヨナ」を読んだ時には難解、なぜなら決して論理的に書かれているわけではないので、その詩の部分をどう解釈するのかが難しかったですね。旧約聖書の聖人の話を題材にしているという部分に関しても悩んだのですが、結局のところは一人の漁師が鯨に飲み込まれた、その人間を演じようと決めました。魚の中で孤独に生きていた人間=ヨナがなんとか光を見出そうとしている姿を、単独でルーマニアで芝居を作ろうとしている自分に投影しながら、ヨナに励まされながら作っていった気がします。」

そんな稽古期間を経て、5月21日と22日のシビウでのワールドプレミア公演はシビウ国際演劇祭のメイン会場である約300席のラドゥ・スタンカ国立劇場で上演され、さまざまな年齢の観客で席が埋め尽くされた上演は4回のカーテンコール、そして自然とスタンディングオベーションも起こり、大盛況のうちに幕を閉じた。

撮影:齋藤千春
撮影:齋藤千春

ラドゥ・スタンカ国立劇場でのワールドプレミア公演のカーテンコールの様子

「海外での字幕付きの上演は初めてだったのですが、全く緊張していなかったです。なぜかというと、3週間ぐらいラドゥ・スタンカ国立劇場で稽古をしていたので、毎日ホテルから劇場まで同じ道を通って劇場入りして、発声練習をして、楽屋も同じで、違うのはお客さんがいるかどうかだけで、その意味では全部わかっていたので、それはとても良かったです。終演後にとても熱い反響をいただいて、本当に関わってくれた人全員に感謝しかないです。」

その後東欧ツアーに出た最初の公演、ブダペスト国立劇場の公演では予定していた20分のアフタートークが1時間20分にまで延長され、観客の関心の高さが明らかになったとか。

「ものすごく反応が良かったのを覚えています。観客はよく笑ってくださっていましたし。なんと上演時間よりも長いくらいの(笑)アフタートークでも皆さんとても熱心でした。本当に老若男女の方々が劇場に集まって来ていて、それがヨーロッパで強く感じたことの一つです。」

その後、飛行機で移動してルーマニアの東、ウクライナと隣接しているモルドバの国立劇場でも公演をして、ツアー最終地ブルガリアでは一日2回公演—16時と21時開演—を行い、シビウ国際演劇祭へと乗り込んだ。

稽古初日に感じたルーマニアと日本の制作現場との違いは随所にあって、例えば、宣伝写真の撮影はある日の稽古場で、前触れなく急に始まったのだと言う。

その“突然”はその後も続き、東欧ツアーの途中のモルドバではまたもや突然、ルーマニアの国営放送のモルドバ支局の朝のテレビ生番組への出演が決まり、ルーマニア語で進行する番組に日本語同時通訳なしで、何を話しているのかわからない状況の中、対応したと笑いながら話す佐々木。さらに、今だから笑えるけれどと前置きをして、生放送の番組内でそれまで30分間違えて伝えられていた夜の正式な開演時間を知ることとなった、という驚きのエピソードを話してくれた。

シビウ国際演劇祭では当初1公演が予定されていたのだが、販売開始から10分で売り切れてしまったので、急遽2回公演が組まれた。

「当日、13時からリハーサル、15時開演というスケジュールだったのですが、リハーサルは15分ぐらいやって“はい、もうそれでOK”となりました。レパートリー公演の劇場なので、基本そんな感じらしいです。なので、最初のプレミア公演の時よりもほんの少し緊張しました。」

「最後に、プルカレーテさんが“蔵之介のことは一俳優というよりも、友人として考えている。友情を感じた俳優は他にはいない”とおっしゃってくれて、それがものすごく嬉しかったです」と、大きなお土産話を披露してくれた。

「僕自身が持ち込んだ日本らしさ、僕の日本人らしい考え方をプルカレーテさんが反映してくださっているので、ルーマニアで現地チームと、そして日本から参加した僕が、まさに一緒に作った舞台になっています。

何の予備知識も要りません。おそらくこれまで観た事のないようなお芝居になっていると思います。」

Photo TNRS: ALEXANDRU CONDURACHE

舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」 芸劇オータムセレクション

佐々木蔵之介ひとり芝居 「ヨナ-Jonah」

日程:2025年10月2日㊍~13日(月・祝)    

※10月1日(水)プレビュー公演

会場:東京芸術劇場 シアターウエスト

その後、国内ツアー

金沢公演 2025年10月18日(土)北國新聞赤羽ホール

松本公演 2025年10月25日(土)、26日(日) まつもと市民芸術館 小ホール

水戸公演 2025年11月1日(土)、2日(日) 水戸芸術館ACM劇場

山口公演 2025年11月8日(土)、9日(日) 山口情報芸術センタースタジオA

大阪公演 2025年11月22日(土)〜24日(月・休) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

詳細:http://www.geigeki.jp/

https://www.geigeki.jp/performance/theater377