② プロデューサー、女優のバイラ・ベラへのインタビュー

(c) Nobuko Tanaka

観劇したモンゴル公演では出演はなかったものの、秋の日本公演でのツェツェル正妃役での出演が決まっているバイラ・ベラ。

英国留学を経て国際的な女優として活動する中、トップモデルの顔を持ち、国連REDD +モンゴル環境大使として社会貢献も行なうという八面六臂の活躍を見せる彼女は英国演劇界との繋がりから「モンゴル・ハーン」のプロデューサーの役割をその経歴に加えることになった。

楽屋で実際の衣装に囲まれながら、さまざまな質問に真摯に答えてくれたベラ。日本で彼女のツェツェル正妃に会えるのが楽しみだ。

(c) Katja Ogrin

なぜプロデューサーとしてこの作品に関わろうと思ったのですか。

ロンドンで映画女優として学んでいた時にコロナが始まり、かなり長い間ロンドンから離れることが出来ませんでした。ですが、父が癌を患ったことで一度モンゴルに戻りました。その際に友人の一人がこの国立アカデミックドラマシアターで上演されていた「印章のない国家(State Without A Seal)」という芝居に誘ってくれて友人と一緒に観劇しました。この「印章のない国家」が今回の「モンゴル・ハーン」の元となった芝居です。私は本当に素晴らしいモンゴルの舞台作品だと思いました。主役のハーンを演じていたのが私の友人の親友だったので、一緒に終演後にバックステージを訪ねました。その彼は現在の舞台には出演していませんが、そこで今作の演出家であるヒーロー・バートル氏と出会ったのです。そこで私は本当に素晴らしい作品なので、絶対にウェストエンドへ持っていくべきだと言いました。当時私はロンドンに住んでいたので、バートル氏からぜひロンドン公演の可能性をリサーチして欲しいと頼まれたのです。それがきっかけで、女優として、そしてプロデューサーとしてこの作品に関わることになりました。英語版の舞台も制作することになり、英国で女優として活動していた私に役がまわってきたのです。

一見、悪女のように見えますが、ツェツェル正妃の役は気に入っていますか。

ええ、彼女はとてもチャーミングで、すごく気に入っています。

私は彼女が悪女だとは全く思いません。愛を求めていただけなのに王であるハーンから愛されなかったことで、エゲレグ首相になびいたのでしょう。彼女は何よりもまず子供たちのことを優先して決断したのです。最後には不幸な結末になり、自らで人生のツケを払うことになってしまうのですが、私は彼女を演じる際に悪女という役作りはしていません。

舞台のビデオを拝見した際、彼女が自分の赤ん坊と別れる際に赤ん坊にキスをするシーンがあったのですが、とても感動的なシーンでした。

そうですねとても力強いシーンで、演じていて毎回泣いてしまいます。そのシーンでは自分に強く照明があたる中、観客席が真っ暗で何も見えない状況で、その上ドラマティックな効果音などもあって本当にツェツェル正妃の役に没入しています。そのようなことが起こるのが演劇の素晴らしさだと思います。これまで映画女優として長い間、演技をしてきました。映画はシーンを撮ってはカット、そして毎回違うシーンを撮影していくという連続ですが、舞台の場合は2時間半、その役を生き続けるわけですので、つい泣いてしまうのです。

この作品では映像が効果的に使われています。また他にもさまざまな工夫がなされていると思いますが、ご自身はどこがこの作品の見どころだと思っていますか。

やはり全体的に映画のような美しさが魅力だと思います。バートル監督は映像の監督でもあるので、映画技法が随所に見られます。細部にまでこだわっているので、舞台では同時に何ヵ所もの見所が出現します。役者がシェイクスピア劇のような演技を見せる一方で、大規模なダンスシーンがあって、なんと言ってもモンゴルの歴史、3000年前の衣服を検証した衣装が見どころとなっています。見事な照明、そしてモンゴルの伝統的な音楽、そしてご指摘いただいた迫力の映像背景、さらには匂いという面でも、あらゆる身体の五感でお楽しみいただける舞台だと思います。その全部を受け取ることは難しいとは思いますが、人間の脳は優れているので、全体としてそれらをきちんと感じてもらえると思います。

(c) Nobuko Tanaka

モンゴル文化が色濃く反映されている舞台だと思います。日本ではモンゴルの魅力をどのように伝えたいですか。

日本のお客さまには多くの点で楽しんでいただけると信じています。例えば、日本の人形遣い(文楽)が特別であることは承知していますが、モンゴルの人形遣いは西洋と東洋の融合のような、アジアスタイルの人形遣いを行なっています。モンゴル独自の音楽とダンスにも注目していただきたいです。

(c) Katja Ogrin
(c) Katja Ogrin

これまで、モンゴル、英国、シンガポールと公演を行なってきたわけですが、それぞれの場所での観客の反応はいかがでしたか。

モンゴルの観客はこの芝居が大好きで、特にモンゴル語での上演はとても反応が良いです。なぜなら作家のバブー・ルハグヴァスレンがモンゴルのシェイクスピアと称される人物で、セリフがとても詩的で美しいからです。シンガポールの観客はこの作品をもっとエンターテインメントとして受け入れていたようです。なので、モンゴルの観客はストーリー、そこにある意味や哲学を読み取ろうとしていましたが、シンガポールでは音楽やダンス、ステージの色彩などに興味が集まっていました。ロンドン・ウェストエンドの公演についてはおよそ50の劇評が出たのですが、ほぼ初めてと言えるアジアの大掛かりな舞台ということで、まずは大きな評判となりました。英語の字幕付きのモンゴル語上演だったのですが、芸術を好む人たちに外国語の舞台が喜ばれたようで、結果、ロンドン・コロシアム劇場(2,300席)での公演は完全に売り切れとなったのです。ロンドンの観客には伝統的なモンゴル文化がとても魅力であったのだと思います。同じような反応を日本でも期待しています。

英国との共同制作はどのようなものだったのでしょうか。

ご存じのように英国演劇では一定の基準をというものがありますので、すでにある英国独自のやり方で制作を行います。モンゴルの演劇教育はロシアの演劇が由来なので、英国での創作に際して、私たちには従来のロシア式ではなく英国式に則って創作するというチャレンジがありました。なので、我々が共同制作で学ぶことはとても多くありましたし、逆に英国側もモンゴル式というのを学んだのだと思います。そのように歩み寄る中、共通の美意識というものもありました。私個人としてはモンゴルの人たちは遊牧民なので何事にもフレキシブルに対応する傾向があり、とにかく素早く決断します。その点で、時に英国チームは難しいと感じたかもしれませんが、モンゴルチームは臨機応変にさまざまな問題に対処していました。英国チームはとにかく細部に渡り厳密なこだわりを徹底していましたので、そのようなところで我々が学ぶことは多かったです。

(c) Nobuko Tanaka

衣装の説明をするベラ氏

2024年にモンゴルで180回以上のロングランを実現したとのことですが、これほどまでモンゴルで大ヒットとなった理由はどこにあると思いますか。

この作品はモンゴル演劇史に残る作品となりました。以前は演劇公演が利益を生むとは考えられていませんでした。最も長いロングランが27回公演でしたから。「モンゴル・ハーン」が幕を開けると、その好評から延長が続き、まず128回のロングラン公演となったのです。バートル氏が本当に素晴らしい仕事をしたと思っています。ジャンルを問わず芸術好きな人、誰もが楽しめる作品を作り上げたのです。口コミが広まってこのような大ヒットとなりました。

モンゴルで“女性”のプロデューサーというのは珍しいのでしょうか。一般的な女性の地位について教えて下さい。

モンゴルはさまざまなことが変わってきている過渡期だと感じています。特に若い女性の多くがウランバートルで働いていますし、女性の教育水準も年々高くなっています。以前は男性中心だった演劇プロデューサー、演出家の仕事も女性が就くようになってきました。良いことですよね。

モンゴル国民にとって演劇はどのような位置にあるものなのですか。

英国の人たちのような、多くの人の日常にあるものではないですね。とは言え、英国での公演の集客が簡単だったわけではありません。モンゴルでは演劇上演を行うある程度の規模の劇場はこの国立劇場ぐらいで、他には小劇場が少しあるくらいです。なので、モンゴルでは演劇鑑賞の選択肢があまりありません。一方でウェストエンドでは40近い劇場があるエリアに常時ひしめき合っているわけで、自ずと競争が激しくなります。「ライオンキング」や「オペラ座の怪人」が数メートル先で上演されている中で「モンゴル・ハーン」が連日満員となったのは凄いことです。

日本公演へ向けて、観客に何を期待しますか。

どなたが観にいらしても、モンゴルのことをもっと知ることになると思うので、それを期待しています。そして、その方々がこの機会に周りの家族や友人にモンゴルのことを広めてもらえたら嬉しいです。そして最終的にモンゴルに来てもらえたらと思います。

モンゴルで特にお勧め楽しみ方はありますか。

ぜひ、草原で星空観測をしてもらいたいです。あとそこで乗馬を経験してもらいたい。日本には何度か行っていますが、どこでも人がいっぱいで混雑していますよね。ここで、田舎の方へ行くと50kmぐらい人一人見ないような広大な景色が広がっています。まるで異なる星に来たかのようですから、街灯一つない場所で、星を見上げるのは満天の星がついたホテルに泊まるような経験となるでしょう。

日本モンゴル友好記念事業
 『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』Japan Tour 2025

【日程】 
 <東京>2025年10月10日(金)~20日(月) 

東京国際フォーラム ホールC


<愛知>2025年10月24日(金)~26日(日)

愛知県芸術劇場 大ホール

詳細は

https://sunrisetokyo.com/detail/29881

https://themongolkhan.com