①演出家、プロデューサーのヒーロー・バートルへのインタビュー

(c) Nobuko Tanaka

自身が描いたモンゴル・ハーンのイラストの前で ヒーロー・バートル氏

「モンゴル・ハーン」の舞台観劇の前に劇場横にあるゲルスタイルのバーの個室に取材陣を招き入れ、羊の足のくるぶしの骨を用いるモンゴル特有の占い(シャガイ)を紹介するプロデューサーであり演出のヒーロー・バートル(Hero Baatar)。タイムに似たモンゴルの香草の香りを焚く中、「これがないと会話が始まらない」と言うモンゴルのミルク酒を飲みながら、和やかな雰囲気でインタビューが始まった。

今の観客たちに向けて、なぜこの話を選んだのですか。

「モンゴル・ハーン」はモンゴルの有名な作家バブー・ルハグヴァスレンによるフィクションです。フィクションではあるのですが、モンゴルの古くから伝わる物語、モンゴル文化がそこに盛り込まれていて、モンゴル伝説のような話となっています。フン族(4~5世紀にヨーロッパに侵攻したアジア系遊牧民)がモンゴルの起源であると言われていますが、日本人にも繋がりがあるという研究者もいます。モンゴル人と日本人の共通点の赤ん坊に蒙古斑が現れるというのもその理由の一つであるのかもしれません。

コロナを経て、私たちは自分のことだけを考えるのではなく、お互いを尊重して仲良くしながら、この地球の自然を大事にしなくてはいけないということを考える時期に入っていると感じるようになりました。発展するとはどういうことか、愛する者たちに何を残すのか、それをこれから考えていく時なのだと思います。日本人は自分のことのみならず、他の人たちのことも考える人たちだと思います。この「モンゴル・ハーン」には周りと尊重しあうことが色々な面から描かれていますので、日本の観客の心に届くのではないかと思っています。

今作はロンドン、シンガポールで上演され好評を博していますが、もともと海外公演を念頭において作られたのでしょうか。

モンゴルの芸術、文化を世界の人々に知ってもらいたいと思い、その意味で最初から世界で上演することを考えながら創作しました。

モンゴルの演劇事情について、少しお話しいただけますか。映画やテレビ、ネットと比べて演劇はどのような位置にあるのでしょうか。

ご存知の通り、今は携帯電話で全てのことが行われ、人々は常に携帯電話でコミュニケーションをとっています。ですが、劇場ではそんな人々が携帯をオフにして、目の前で起きているモンゴルの歴史劇に集中します。そのことがとても良いことだと思っています。世界中で問題となっている携帯依存から離れて、皆がある場所、つまり劇場に集まってそこに居る人たちが一緒に楽しむ、今は少なくなってきたそんな習慣を取り戻すことが出来るのが演劇だと思っています。

「モンゴル・ハーン」のテーマの一つが恋愛なので、モンゴルの若者たちが連れ立って劇場に来ることのきっかけになっているのだと思います。お互い、なかなか聞けないこと、話せないこと、をこの劇場という場所に来て観劇することで、それぞれの恋愛に対する思いを確認するような、そんな場所にもなっているのだと感じます。

1998年に書かれた戯曲だということですが、これまでどのような位置にあったのでしょうか。その当時は作者の国家観が反映された作品だと捉えられていたとのことですが、今回の上演では今の人たちに向けてどのようなことを留意しましたか。

1998年以降、2回、舞台化されています。内容は今の時代にちょうどあっていると思います。今のモンゴルの政治家たちがこれから考えなくてはならないことが詰まっているので、今こそこの戯曲を上演するべきだと考えました。

演出の特徴として、演技をする俳優たちと一体になったコロス、ダンサーたちの動きがあると思うのですが、そのアイディアはどこからきたのでしょうか。

モンゴルの現代演劇の歴史は100年ぐらいです。モンゴルでは人との関わりを言葉よりも動作、身体で表すことが多いと気づきました。そんなモンゴルの習慣から、モンゴルでは話すよりも見る、その人の行動でわかるということがあるのだと思います。それをもっと大きなスケールにして舞台で見せたいと思ったのです。モンゴルのそんな身体性という特徴を世界で披露したい、世界へ問いたいと思いました。

(c) Katja Ogrin
(c) Katja Ogrin
撮影:阿久津知宏

キャスティングはどのようになさったのですか。

モンゴルを代表する役者たちの中から、かなり時間をかけて、当時は存命だった作家であるルハグヴァスレンと話しながら決めました。さらに言うと、私が役者たちのことを彼らが若い頃からよく知っている仲で、彼らの人柄もよくわかっているので、どの役が適しているのかを私が提案したという面もあります。

もう何百回と上演していますので、役者はどんどんそれぞれの役に馴染んできています。バイラが演じるツェツェル正妃に関しても、日毎に変化しています。日本でご覧いただく時にはもっともっと良くなっていると確信しています。そして、俳優たちは“演じる”というよりもその役を“生きている”のだと感じています。

“ハーン”の名が題名にあがっていますが、実際はメインのイメージにある6人(ハーン、エゲレグ首相、ツェツェル正妃、ゲレル側妃、2人の王子)皆が主役だとお考えですか。

あまり話さない、一見目立たないけれど重要な役、その人がいないと他が成り立たないという役もあります。そのようにお互いがお互いを支えているのだと思います。この劇は、たとえ小さなパート、目立たないシーンでも、全てを全力で見せています。小さなことにも気を抜かない、日本の文化にどこか通じるところがあるかもしれません。全てに関して、些細に思えることほどそれは大きな役割を担っているのです。その意味で6人それぞれの存在が重要で、お互いがお互いを支えているのです。

バートルさんは舞台の他に映画監督もなさっています。その中で歴史劇を扱うことが多いとのことですが、舞台、映像に通じる一貫したテーマはありますか。

この「モンゴル・ハーン」では愛をテーマに、そのスケールの大きさを表現したいと思いました。おっしゃる通り、それを歴史を通して伝えたいと考えたのです。

私一人でこの舞台作品を作ったわけではありません。ダンサー、スタッフ、関わった人々皆がモンゴルの習慣、文化を世界に伝えたいという思いのもと、みんなで一緒に考えて作った作品です。

フン族は中国、カザフスタン辺りに住む人たちの起源とも言われていますので、その文化の元を皆様にお見せしたいと思っています。もしかしたら日本の文化に近いものもあるかもしれません。それは同じアジア人として、その文化は同じところから流れてきているのかもしれないと考えられるからです。そのあたりも舞台を観て、それぞれに考えてもらいたいところです。

バートルさんはこれまで日本に来たことはありますか。

たくさんあります。モンゴル人の横綱をお祝いする会に招待されて、よく日本へ行きました。モンゴルは人口が少ない(約350万人)ので、お互いをよく知っています。モンゴル人二人が話していると、結局共通の知り合いにたどりつくことが多いのです。なので、相撲界の中に竹馬の友がいることもあって、そのような会に呼ばれる機会もあります。

例えば、今、私の隣で通訳をしている女性も私の旧知の友人で、今日、急遽、彼女が作家のことをよく知っていることを思い出して、この場の通訳を頼みました。

(c) Nobuko Tanaka

モンゴルのミルク酒をふるまいながらインタビューに答えるバートル氏

以前、作家のルハグヴァスレン(2019年没)と一緒に日本へ行きまして、彼をハチ公へ連れて行きました。なぜならハチ公(物語)には日本の哲学があると思っているからです。当時、元横綱・白鵬さんの番組制作のために日本に滞在し、彼と熱い議論を交わしました。その時に初めてこの「モンゴル・ハーン」の企画の話、ルハグヴァスレンの小説を新しく舞台化するのはどうかという話が出たのです。

日本では渋谷のスクランブル交差点のものすごい数の人の波を見ながら、人生って何だろうと思いました。ここにいる大勢の人が同時期を生き、そして死んで、その後にはまた人が生まれ育つ、人生って何だろう、と人生についてルハグヴァスレン氏と話し会いながら「モンゴル・ハーン」を新しく作ろうということになったのです。

人の欲望や殺戮が描かれているこの舞台をモンゴルの人たちはどのように受けとめ、感じていると思いますか。

モンゴル人も他の国の人たちと同じように受け取ったのだと思います。人は自分のことを評価することは難しいですが、他人のこととなると側で冷静に見ることで、その判断が違ってきます。今、モンゴルで発生している様々な問題を舞台を通じて観ることによって、私たちのここが足りないということを考えさせられ、ショックを受けながら観ることになります。その点では他の国の人たちが受けるものと変わりないものを感じるのだと思います。

少し重いと感じるかもしれませんが、この舞台では人間の中にある欲望を全てお見せしているので、ショックを受けても見るべきだと思います。

次回作に関して、何か構想とか気になる題材があれば教えて下さい。

オペラに似たようなもので、モンゴル長唄(オルティン・ドー)というものがあります。その長唄のオペラを作る予定になっていて準備も始めています。第五代皇帝で元朝の初代皇帝フビライ・ハンの人生を描いたオペラを作ります。

撮影:阿久津知宏

日本モンゴル友好記念事業
 『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』Japan Tour 2025

【日程】 
 <東京>2025年10月10日(金)~20日(月) 

東京国際フォーラム ホールC


<愛知>2025年10月24日(金)~26日(日)

愛知県芸術劇場 大ホール

詳細は

https://sunrisetokyo.com/detail/29881

https://themongolkhan.com