ロンドンで始まったアートの新しい試みチケットバンクとは?

Look down upon theatre auditorium
Make your way to your seat. Almost full seats of a theatre.
(c) Matthew Henry

(The Guardian 14/12/2022紙面より)

毎週1,000枚のチケットをチケット購入が難しい低所得者の人たちに提供

フードバンクの文化バージョンとして、売れ残った劇場チケットが生活費に困っている人たちに無料で提供されることに。2023年から開始されるこのロンドンにおける制度では、毎週約1,000枚のチケットが文化的活動にお金を払うことが難しい人々に提供される予定です。

フードバンクならぬ「チケットバンク」では演劇だけでなく、コンサート、コメディショー、ダンス公演などの公演を楽しめるようにチケットの無料提供を行う予定で、すでにバービカンやナショナル・シアター、ラウンドハウスなどのロンドンの 主要文化施設がこの制度に参加を表明しています。今後もさらに多くの施設が参加する兆しです。

チケットバンクは、Cardboard Citizensという団体の芸術監督であるChris Sonnexの発案から始まりました。クリス曰く、「フードバンクやヒートバンクなどの事業をまとめる素晴らしい人がいる一方で、魂の観点からの人間の基本的なニーズは満たされていないままです。生活費の工面で苦しんでいる人々はコミュニティやエンターテイメント、魂を癒してくれるものへのアクセスを必要としているのです。アートは基本的人権です。とは言え、人の経済的状況が厳しくなればなるほど、現実にはアートから引き離されているのです。」

クリスがこの思いをCultural Philanthropy Foundationの会長であるキャロライン・マコーミックに持ち込んだところ、彼女は劇場でチケットが売れ残っている場合、芸術部門とつながりのある“私のような人間”に直前にチケットを無料で配ることがよくあって、業界ではそれは「ペーパーリング(紙にする)」と呼ばれていますよと彼に伝えました。

「完売したように見える舞台でも数席空いているということはよくあることです」とキャロラインは言います。

チケットバンクはフードバンクを運営するTrussell Trust、住宅慈善団体のCentrepointやPositive Action in Housing、若い元受刑者を支援するLongford Trustなどとパートナーシップを結ぶ予定で、これらの組織がチケットバンクで実際にチケットを予約するためのアクセスコード(サービスを利用するのに必要な番号やパスワード)を提供することとなります。

このシステムではチケットは無料、もしくは払える金額を支払うという形で提供されます。「金額は10ペンス(約1.5円)でも良いのです。なぜなら、支払える額を支払うことでチケットを受け取る側の人の尊厳を保つことができますから」とキャロライン。

空席を活用するのですから、もともと空席ということで会場への負担はほとんどありません。

今のところ(2022年12月)、NT、Roundhouse、Barbican、Almeida、Gate、Bush、Taraの7つの劇場がこの制度への参加を表明しています。7団体が1月に加わり、さらにキャロラインは映画館と同様の仕組みを交渉中です。

「私の望みは、英国の他の地域でもこのアイデアを取り入れ採用してくれるようになること」とキャロラインは言います。

クリスよれば「芸術へアクセスするには100万通りの障壁があり、最も大きな壁のひとつがチケットの値段」とのことです。

ロンドン市内の低所得者団地で育った彼は美術館に行った記憶がないと話します。「学校から行きなさいと言われない限り、美術館には行くことはありませんでした。有名な劇場から歩いて5分のところに住んでいたのですが、それが劇場であることすら知りませんでした。なので今回の試みでは、できるだけ多くの人に対して「これはあなたのためのものですよ」とまず伝えることが重要です。だって、私の場合はそれが無かったのですから。」

彼は続けます。「これまで劇場へ行ったことがなくて、そうする余裕がない人たちに手を差し伸べれば、もしかしたら何年後かには”あの時に観たあの作品がとても気に入ったので、幾らかのお金を手にしたのでチケットを払って観てみようと思った”と言いながらその人が劇場に戻ってくるかもしれません。これは観客の数が減少し高齢化する中で、将来を見据えた取り組みなんです。」

「少なくとも、、、」とクリスは言います。「劇場に行けば、(ホームレスの)彼らも2〜3時間は温かいところに居られるでしょう」。

チケットバンクへの寄付をお考えの方は:

 culturalphilanthropyfoundation.co.uk/the-ticket-bank