https://www.theguardian.com/stage/gallery/2022/jul/03/peter-brook-a-life-in-pictures
(ピーター・ブルックの生涯を追った写真の一覧はこちらから)
2022年7月2日、20世紀の演劇に多大なる影響を与えた英国出身の演出家ピーター・ブルックの訃報が飛び込んできた。97歳だった。
最年少の演出家(21歳)として招かれたロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)で多くのシェイクスピア劇を演出し、その斬新なアプローチが高い評価を得るも、当時(50年代)横行していた保守的な英国の演劇の手法に飽きたらず、1970年代初めに拠点をフランスに移し、パリのブッフ・デュ・ノール(Theatre des Bouffes du Nord)劇場の芸術監督となり、国際演劇研究センター(The International Centre of Theatre Research=CIRT)を創設した。CIRTでは世界各地—フランス、英国、米国、ルーマニア、ポーランド、イタリア、マリ、ナイジェリア、インド、モロッコ—から役者が集められ、多様な観客へ向けた演劇創作が行われるユニークな演劇の実験の現場としてヨーロッパだけでなく世界からの注目を集めるようになる。ちなみに日本人俳優ヨシ笈田も1968年に出演したブルック演出の「テンペスト」がきっかけでCIRTに参加した創設メンバーの一人である。
1985年に世界三大演劇祭の一つ、毎年南仏のアヴィニヨンで開催されているアヴィニヨン・フェスティバルで上演された上演時間9時間に及ぶ壮大なスケールの舞台「マハーバーラタ」は劇場という建物の中ではなくアヴィニヨン中心から15km離れた丘陵にある巨大な石切場(屋外)で一晩かけて上演され、演劇的事件として、さらには伝説の名作舞台として今でも語り継がれられている。
常に時勢に敏感に反応し、既存のものへの懐疑を抱きその謎を探るべく実験を重ね、最新のリアルを追求し続けた唯一無二の演劇人ピーター・ブルック。
英国ではその訃報を受け、多くの演劇批評家、ジャーナリストたちが文を寄せている。
以下にその一部を紹介しておく。
Mark Lawson (The Guardian) — 第一級と言われる演出家たちは往々にして、そのヴィジュアル(視覚効果)、もしくは発語(朗誦術)の扱いにおいて優れているものだが、ブルックの場合はその両方において素晴らしかった。
20世紀の英国演劇の歴史は二人のピーター(ピーター・ブルックとピーター・ホール(初代RSC芸術監督))らの多くの言葉で満ちている。ホールの偉大な業績としてはストラットフォードとロンドンに文化の殿堂を打ち建て、それらを英国文化に欠かせないものにしたこと。そしてブルックはそれらの建物の中で働く演出家たちの創造性に対して、多大なる影響を与えたことだろう。
Michael Billington (The Guardian) — ピーター・ブルックは演劇における開拓者であり、限りない探究心を持った人だった。たとえば、まだ初期の頃のインタビューの際、彼は開始早々にインタビュー用に持ち込んだ機器や技術に興味を示し、レコーダーがどのように動くのか、ラジオスタジオのグリーンランプを誰が操作しているのか、どのようにしてレコード音源を文字にするのか、、、など矢継ぎ早に質問してきたのを覚えている。
Chris Wiegand (The Guardian) — 多くの彼の作品が余分なものを削ぎ落とし、ドラマの本質的な部分を抽出し、そしてそれらをクリアーな視点と優雅なタッチで舞台に表現することで賞賛を得たのです。
シェイクスピア・グローブ座の芸術監督ミッシェル・テリーは「我々は道標を失いました。。。。ブルック氏は演劇とシェイクスピアの深い人間性と変わっていくことのできる力を信じただけでなく、それらを実際に実行したのです。彼は真の、そして稀な実践者であり、彼の遺産は彼の不変の夏の中で謙虚に彼に続こうとする私たちの中に生き続けなければなりません。」