Sign of Stratford Upon Avon in England

時を経て上演が決まったRSCの「冬物語」

The Guardian、Andrew Dicksonの記事から抜粋

Cafe named Shakespeare and Company
(c) Tabitha Turner /Unsplush

コロナ禍のロックダウンで開幕が遅れに遅れていたRoyal Shakespeare Company (RSC)の「冬物語」の上演が決定。

ロンドン北部、ウィリアム・シェイクスピアの生地ストラットフォード・アポン・エイボンにあるRSCは今歓喜に沸いている。と言うのも、「冬物語」のラストシーンのドレスリハーサルの最中だからだ。死んでしまったはずのヒロイン、ハーマイオニがどういうわけか生き返り、そして彼女の嫉妬深い夫は自身の間違いを認め、夫婦は長い間消息不明だった娘と一緒に元のさやにおさまり、ハッピーエンドを迎える。おそらくこれはシェイクスピア劇の中で最もおとぎ話的なエンディングだろう。終焉後、客席に灯りがついたとき一人のスタッフの目頭が熱くなっているのを私は見逃さなかった。

これほどまでにRSCのスタッフたちに特別に感じさせるものは何なのか、、それはここまで到達するのに本当に時間がかかったということに尽きるだろう。昨年3月に最初のロックダウンがあった時がこの「冬物語」の開幕数日前だった。そしてそれから1週間もしないうちに、公演の無期限の延期が決まり、RSCのこれ以外の国内外の公演に関しても全てが白紙となってしまったのだ。昨年の夏の終わりにこの演目を上演するという案も浮上したものの、その時期に2度目のロックダウンに突入。結果、今のプランとしては「冬物語」をBBC FOUR(無料のテレビ、ラジオ放送サービス)で放送する用に今月末に、出来うる限りオリジナルのキャストとスタッフを集めて上演するという計画だ。

これが三度目の正直となるのだろうか?「まあこの劇自体が希望の話ですから」と今作の演出家でRSCの副芸術監督のErica Whyman は話す。ハーマイオニを演じるKemi-Bo Jacobsは思慮深げに頷きながら「この部屋にはたくさんのゴーストがいるわね」と言う。

興味深いのは、Covid-19が蔓延した昨年に多くの人々が感じた感覚、感情を抽出するのに適した戯曲としては「冬物語」ほどぴったりのものはないであろうということ。シェイクスピアの最晩年に書いた戯曲で、その時期の作品の多くにあるように、神秘主義的な力強いテーマが込められている。ハーマイオニの夫リオンティーズがお腹の子は誰か他の男の子供に違いないとハーマイオニに告げた時、彼女は妊娠していたのだが、牢屋で娘を出産後に彼女はその可愛い娘から引き離され、孤立する。それにより彼女は悲しみから死を受け入れるのだ。そして予想外の運命の逆転のみが彼女の悲劇を覆す。

この劇の1幕と2幕の間には長い時間のギャップ(16年間)があるのだが、シェイクスピアはそこで我々にハーマイオニの娘が元気に成長していて、そこからは春を迎えることとなることを信じるように仕向けている。

WhymanはAvonの変わりなく美しい樹々を指差しながら「我々は以前よりも深くこの作品を理解出来たと思っています。我々全員が昨年よりもかなり歳をとった(賢くなった)と感じています。」

シェイクスピア学者たちは揃って舞台を1年後に復活させることの現実的な難しさについて語っている、当初の感覚を取り戻すのは難しいであろうと。それについてJacobsはそれほどでもないと言う「昨年の稽古の感覚が残っていることに驚いたわ、身体で覚えたことって重要なのね。」

そうは言ったものの、コロナ対策は現場にかなりの負荷を与えていることは明らかで、動作は出来る限り近寄り過ぎないように再検討され、マスク着用、そして定期的な感染テストは必須である。

「誰かがドアを開閉するたびに、我々はその人が触れた場所をチェックするの。結構大変なのよ」とWhyman。

「舞台で近寄ったり、接触したり出来ないから、その分言葉に集中しているかも」と話すJacobs。(実は今回の舞台ではWilliam GrintとBea Websterという2人の聴覚障害のある役者が参加していて彼らは手話で演じる。その意味で言葉を発することにはさらなる複雑さが加味されているのだ)

確実に言えることは、キャストたちは今回の上演に大いに楽観的だと言うこと。コロナ禍において、RSCでは可能な限り給料を保障し、さらに35人の重要な役者やスタッフをキープする(給料を払い続ける)ことを決めた。それによりJacobsをはじめ彼女の同僚たちはコロナで劇場が閉まっている間も様々なプロジェクトに参加してきたのだ—pop up 屋外パフォーマンスや自宅待機を余儀なくされている子供達向けのアウトリーチプロジェクト、そしてRASが新たに始めたポッドキャストを使ったプログラムなど。

とは言え、RSCは多額の(19.4mポンド=30億円弱)援助を政府から受けているとは言え、62人を解雇しなければならず、さらに他のスタッフにしてもかなり大幅な契約の改訂を迫られたことは周知の事実。

Jacobsは「多くの同僚、友人たちが職を失ったわ。彼らの気持ちを考えると複雑。演劇業界がかなりの打撃を受けたし、この状況がいつ好転するかなんてまだ誰もわからないからね。」と話す。RSC自体、この夏の再開を目指しているのだが、まずは屋外の簡易シアター(pop-upシアター)の上演からはじめて徐々に本来の劇場での上演へと以降していく予定だ。

ライブで観客を前にしてではなく、カメラの前での演技にだとしてもハーマイオニを演じられるのは本当に嬉しいとJacobs、「このストーリーをまた語ることが出来るのは本当に私にとってかけがえのない喜びなの」と彼女は言う。

再度、新たに2度目のチャンスを与えるという「冬物語」のメッセージが今ようやく結実しようとしている。「Time is the great healer; it gives you perspective. 時(とき)というのは偉大なヒーラー(治癒する人)で、その時が将来の展望を示してくれるのだ」