(2020年9月にThe Stageに掲載されたTom Wickerの記事から)
COVID-19が今年の早い時からシアターの暗黒時期をもたらしている中、デジタルプラットフォームが急速にシアターの存続のための観客に与えられたメディアとなりつつある。
ライブパフォーマンスがお茶の間のテレビと同じくらいアクセスが簡単な身近なものとなるという意味においては注目に値する状況と捉えられるだろう。
3月以降、老舗のNational Theatre(NT)から新しいUnicorn劇場まで、多くの劇場がYou Tubeで人気演目の配信などを行なっている。NTアット・ホームのベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーら、スター役者が出演している「フランケンシュタイン」からUnicorn劇場の小規模良作品「Anansi the Spider Re-Spun」まで選択肢は様々だ。BBCでも過去の演劇祭や話題作、例えばアルメイダ劇場の「Albion」(Mike Bartlett作・Rupert Goold演出 2017初演)などを自粛期間特別番組として放映している。そして、さらにTV、ラジオ、BBC iPlayer(BBCが運営するオンデマンド配信チャンネル)などを使ってのアート配信を続けている。
その他にも、ロックダウンはライブでの演劇上演の代わりとなるような、それを目的とした配信という新しいプラットフォームを与えてくれたようだ。Marquee TVのようなデジタルサブスクリプション=オンデマンドの演劇作品配信のサービス、そしてNetflix for the artsでは演劇配信に字幕をつけ、Royal Shakespeare CompanyやGlyndeboruneのオペラ作品などを配信している。そのMarquee TVはエジンバラTVアワードでベストなオンデマンドサービス局としてノミネートも果たしている。
2020年中の劇場の全面再開が難しいと思われる(*この記事は9月に執筆されている)現時点ではますます多くのこの分野への進出が見込まれれている。実際、Official London TheatreがSky VIPを使った新デジタルサービス exclusive theatre content を始めたばかりだ。
そんな中で、Digital Theatreは観客のサブスクライブを見込んで2009年ごろに始まったサービスでこの分野では先駆け的存在。昨今、特に教育分野でその存在を確固たるものとしている、と語るのは元BBC iPlayerのトップでDitigal TheatreのチーフエクゼクティブであるNeelay Patelだ。サブスクライブの単位で言うと、ロックダウンが始まって1ヶ月でその数が3倍になったということだ。当然の事ながら数年契約で購読すればその分割安となり、学校などではそのような長期間の契約を結んでいると話す。
Marquee TVでは2020年3月以降、300%の購読者数急増となった、と話すのはSusannah Simons。彼女いわく、その内訳は55歳以上の、それまで劇場へ通ってライブで観劇していた層の人たちがCovid-19によりワクチンが行き渡るまでは劇場へは戻りたくないと考え購読者となったケースと18~25歳の全てをネットから情報収集する若者たちの購読者が混在していると言う。Simonsはその前者ー劇場が閉まっているからという理由の55歳以上の演劇ファンたち—を今後顧客と確保していくことが重要だと考えている。なぜならこれまでの歴史が示すように、彼らが寄付者(ドナー)であるだろうからだ。劇場再開の暁には、彼らのような人たちが重要なカギとなっていくだろうと考えられる。反して、若者層の興味は変わりやすいので、彼らを定着させるのは難しい、と彼女は話す。「そのことがなぜ我々はこれほどまでに念入りにプラットフォームの企画をたて、毎週毎週プログラムに変化をつけているのかという理由の一つとなっています。」とシモンズ。実は数年前にMarque TVが立ち上がった当初から、どのように若者層や様々なタイプの新しい購読者をアート系の番組に呼び込むのか、が大きな課題だったと彼女は説明する。月額8.99ポンド(約1,300円)というのはNetflixの料金体系と変わらないし、高額なシアターのチケットに比べたらかなり安い。
平等化、というのがこの種の直接人々の電話やタブレット、コンピューターやテレビで見る事のできる配信番組を語る上で重要なポイントとなる。地理的、経済的、そして社会的にアートや演劇にアクセスできないと感じている人たちにそれを可能とさせるのだ、その意味ではこのようなデジタル配信がもっと多くの将来のシアターの観客を作り出すことになるかもしれない。