audiences are doing standing ovation

英国民たちは今、ライブパフォーマンスのマジックを楽しんでいる

Illustration of applause
istock

ライブパフォーマンスの観客たちの様子を測るのは科学の計算式のようにはいかない、なぜなら一回一回その結果は違って出てくるからだ。毎回のパフォーマンスはその都度違うもの。それを踏まえた上で、今日の英国の劇場の特別な高揚感をどうお伝えしたらよいのか、は難しいところでもある。とは言え、長い間の劇場閉鎖が、劇場へ戻ることを許された観客たちを特別な気持ちにさせていることは明白な理で、その気持ちは役者、ダンサー、歌い手、ミュージシャン、劇場の接待スタッフ、そして裏方スタッフ、もちろんチケット購入者たち全てが感じていることだろう。これまでの2年間、スクリーンやヘッドフォンを使って享受してきたものを、同じ場所に集まった他の人たちと一緒に楽しみ、劇場での一体感を感じることができる今というのは彼らにとってやはり特別なことだと推測される。

 

観客たちはただ静かに拍手を送るよりも立ち上がって感動を伝える方がもっと観劇を楽しめると気づいたのだろうか、コロナの閉鎖以前よりもスタンディングオベーションが頻繁に起こるようになっているのが今の現象だ。その例で言えば、昨年6月、ロンドンコロシアムで上演されたミュージカル「ヘアスプレー」でのMarisha Wallaceの熱演に対し、観客たちはプログラムの途中にもかかわらず立ち上がり、その喜びを拍手で表していた。現在ではそのような劇場への感謝からくる感情の高まりを舞台上で起きていることに対してのみぶつけるのではなく、パンデミックを乗り越えた劇場の努力に対しても表す兆候がみてとれる。創立50周年を迎えるロンドン西部のブッシュシアターでは、Tyrell Williamsによる新作「Red Pitch」がソールドアウトの好調を博しており、また、多くのオペラハウスやコンサート会場ではここ数週間ウクライナの国家が演奏され、それにより、さらに観客たちは劇場での高揚した感覚を味わっている。

Enjoying their performance on the street
(c) Nadim Merrikh/Unsplush

しかしながら、これがCovidが多くの芸術団体に与えた打撃を否定したり、軽減したりするものではないのも確かだ。長期的な存続が危ぶまれているイングランド北東部のHartlepoolのタウンホールでは先週末にノーザンバレエの「ピノキオ」が開幕。昨年、ウェストエンドの「オペラ座の怪人」ではミュージシャンの数を27人から14人に縮小せざるを得なくなり、そのかけた楽器の埋め合わせをキーボードの音源で補っている。政府の経済援助の対象とならないフリーランスのアーティストたちは過去2〜3年は辛酸を味わっている。

とは言え、劇場が閉鎖された際に恐れていたことは実際には起こっていないのが救いだ。観客は確実に劇場へ戻って来ているのだ。多くの地方劇場、そしてウェストエンドの劇場を再開した際に、満場の客で賑わいをみせた。ストリーミングは家の中で楽しむことしか出来なかったロックダウン時のお楽しみとしては受け入れられていたと思うが、ライブによる体感にうったえかける喜びに取って代わるものではなかった。ライブで演技やダンス、音楽を享受するという楽しみは人々をスクリーンから遠ざける魅力が大いにあるようだ。

再開後、トップクラスのスター俳優を配してチケットを売りさばいている劇場もあれば、新作ではなくより安全な過去の人気作品を再演している劇場もある。

そのスター俳優たちということで言えば、事実、Paul Bettany (映画「アイアンマン」「アベンジャーズ」など)、 Jessie Buckley (映画「ワイルド・ローズ」「ロスト・ドーター」など)、 Eddie Redmayne(舞台「Red」映画「レ・ミゼラブル」「博士と彼女のセオリー」「ファンタスティック・ビースト」など)、 Kit Harington (テレビシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」舞台「ウォー・ホース」など)らが今年中に舞台出演を予定している。

パンデミックは生活における人と人との交流の機会を激減させた。

一方で、劇場を包むざわめきが、—リン=マニュエル・ミランダ(ミュージカル「イン・ザ・ハイツ」「ハミルトン」の創作者)の言葉を借りれば「それが起こる部屋に居る」—ことによって、それに代わるものはないかけがえのないものなのだ、と教えてくれているのだ。