Young Vic Theatre building

Young Vic劇場の新しいチャレンジ

The Guardian、Mark Brown の記事より抜粋

Young Vic Theatre Foyer
(c) Wiki Commons

ロンドン南部にある老舗劇場Young Vicの芸術監督Kwame Kwei-Armah(俳優業、劇作家を経て2018年に前任者David Lanの後を引き継いで芸術監督に就任)はこの度今後のプログラム全てに関してライブストリーム(配信)を行うと発表。コロナ禍を経て、実際に劇場に居なければ観劇することが出来ないという状況を将来再び作らないための策だと言う。

Kwei-Armahはコロナが演劇のあり方を変えたとし、演目のライブ配信が演劇業界自体を強固にするために不可欠だと話す。彼はロックダウン中に「Best Seat in Your House (お家でお好きな席を)」プロジェクトと題した、ただ舞台を再現するのではない、新しいオンライン観劇の方法を発明したと言う。その方法では複数のカメラ駆使し、オンラインで観ている人たちが彼らの観たいところを選べるようにすると言う。

「ライブ(生)の舞台のどこが良いかって?それは演出家の見せたい見所はあるとしても、それでも自分自身が舞台のどこに注視するかを選べるってこと。舞台の端っこを見ても良いし、それこそ観客の様子を見ても良い。そこがこのアイディアの出発点で、つまり観る側(観客)は自分が観る席をその都度選べるってこと。」

彼がまだ若い時分、お金がないので最安値の席を買って、その後、劇場に現れなかった人の席を物色してその席へ移ったりしていたと話す。「つまり、私はそれを今やりたいのです。彼らに席を移ることが出来るようにして好きな席を選べるようにしたいのです。もちろんそのまま移動しなくても良いですし、彼ら自身のベストビューを見つけてもらっても良いですし。」

Young Vicの劇場再開のシーズンプログラムはブッカー賞受賞者のナイジェリア人作家、詩人Ben Okriの詩から着想を得た「Changing Destiny」、コロナで延期になっていたCush Jumbo主演の「ハムレット」、そしてJames Grahamの新作劇などが予定されている。

希望としては1演目2回のオンライン配信、500枚の上限でチケットを発売する予定。「全ての演目に関してきちんと著作権を獲得して、作家の権利だけでなく俳優たちの版権も得て実行します。オンライン配信を良しとしない俳優さんもいるでしょうからその場合は、それに従います」とKwei-Armah。「パンデミックが演劇のデジタル化の幅を大きく広げました、その傾向が後戻りすることはないでしょう。ラップトップでの観劇がライブでの観劇体験を上回ることは絶対にありません。そうであってはならないのです。でも一方で各年代でライブとオンラインアクセスの定義の仕方は違いがあるはずです。」

「かつて年に3〜4回はNYに飛んで、リンカーン図書館で舞台の映像を見たりしていました。そのようにしてGeorge C Wolfeの多くの作品に触れましたし、Angela Bassettのレディ・マクベスの映像を見ていました。お金をかけてね。」

この度の新しいライブ配信はテクノロジーの恩恵によるものだと彼は言います。「これはライブでの上演の差し替えではなく、ましてやライブ上演と競うものでもないということは強く言いたいです。」

「アクセシビリティという話なんです。James Grahamの新作劇を観たくても劇場を訪れることが叶わない人たちもいます。アクセシビリティはつまり我々の駆動力であり、その動力をちょっとだけこちらに近づけるだけなんです。我々がこの前進を止めることはありません。これからも様々な新しい試みを続けていきます。」

Young Vicの2021年シーズンではWelcome Back and Welcome Homeと題してAIに関わるプログラムを展開していく予定だ。これはThe Guardian紙で以前掲載したAIが書いた記事にKwei-Armahが触発されて出てきたアイディアだそうだ。https://www.theguardian.com/commentisfree/2020/sep/08/robot-wrote-this-article-gpt-3  実在する作家Chinonyerem OdimbaとNina Segal、そしてGPT-3 OPENAI(自然言語処理モデル)のコラボ創作となる。「人間がまだ必要とされるのか、見てみようじゃないか」とKwei-Armah。

彼は劇場が戻って来れたのは本当に喜ばしいことだが、パンデミック前と同じようにはならないと言う。

昨年はパンデミック同様にBlack Lives Matter (BLM)の年でもあったわけだが、それに関してKwei-Armahは「BLMはさらにはっきりした形で届けられこれまでにないほど我々に深く深く染み込んだのだと感じています。理解を深めたと思います。」

「我々は文化としての進歩を絶えず続けています。その歩みは遅く、そして日に日に大変になるばかりですが、とにかく歩みを止めてはいけない、これで良いんだと満足してはいけないのだと思います。常に何かを生みだすために試みを続けるのです。すでに先は長い話ではあるのですが。」