Pass Overレビュー

Portrait of black man

(c) Olu Famule

(The Guardian紙より)

**米国ミネアポリスで起きた警官による過剰な暴力で黒人男性が死亡した事件。映画監督のスパイク・リーは即座に反応してショートフィルムを公開。彼が2018年に制作した「Pass Over」という芝居を題材にした映画も今回の事件そのものの内容だった。Amazon Prime Videoで視聴できる。

スパイク・リーの映画の中で、二人のホームレスの男が生活の不安を抱えながら、むさ苦しい路地裏に身を寄せている。二人は軽妙な掛け合いで冗談を言い合っているがそこには恐怖が常に見え隠れしている。そんなわけで、一人が寝ている間、もう一人は見張り役として起きている。彼らを追っているのが警察官だと言うことが明らかになってくる。彼らがやったのでないかと言われている犯罪がまだ未解決なのだ。「俺らはごく普通の黒人男性、ここにいるだけで何もヤバいことなんてやっていない。」彼らの周りの黒人男性が多く死んでいっていることで彼らは気が滅入っているのだ。「彼の罪ってなんだよ?」と一人が尋ねた。「黒いってことだよ。」

「Pass Over」はもともと2012年の黒人少年Trayvon Martin が自警団員に射殺された事件を受けてAntoinette Nwandu(アントワネット・ヌワンドゥ)が舞台用の戯曲として執筆したもの。この2018年のリーの映画作品の中に、先週ミネアポリスで起きたGeorge Floyd (ジョージ・フロイド)の死(警官が過剰な対応で窒息死させた)、さらにはその後に続いている暴動、抗議行動を見ることができる。

リーは今週、フロイドの死亡事件を受けてショートフィルムを公開しているが、この「Press Over」もその優れた表現から最新の短編と同じくらい雄弁に白人警官の不公平さと黒人アメリカ人を取り巻くマスキュリニティー(男性化)を描き出している。

ヌワンドゥが影響を受けたと言っている「ゴドーを待ちながら」のヴラジミールとエストラゴンのように二人の主人公MosesとKitchは彼らの「真のポテンシャル」に到達することを夢見てそれを待ち続けている—実際には変わらない運命の中でもがいているのだけれど。アメリカ人作家James Baldwin が黒人アメリカ人の限界について「生まれたところが生まれたところだけに黒人であるというだけでその運命は決まってしまうもの」と言った通りに。

今年の始めにキルバーンのKlin劇場で上演されたPaapa EssieduとGershwyn Eustache Jrが演じた英国版の「Pass Over」ではベケット的な部分が強調されとても演劇的な作品に仕上がっていた。その面ではリーの映画版の方がより現実味がある。—リーはシカゴのステッペンウルフ劇団の上演舞台を撮影し、そこへ映画演出を加えてこの映画作品に仕上げている。

フロイドの事件によりますます生々しく感じられるこの映画についてリーはいかにフィクションと現実世界が密に繋がっているのか説いてる。シカゴのステッペンウルフ劇団の舞台を記録したこの映画作品ではMosesとKitchのドラマチックな世界で幕が開くのではなく、黒人たちがバスに乗り込んで劇場へと向かうシーン、そして道路を行き交う日常の風景から始まっている。。その道路にあった標識がその後何もない舞台空間の重要なセットに取って代わり舞台が進行していくという仕掛けなのだ。

また、リーは劇の進行とあわせて、劇場で舞台を観ている人たちの顔を瞬間で次々にクローズアップで映していく。白人でアメリカの善良な市民Mister (Ryan Hallahan)が歯をむき出しにして笑い、また白人警官があきらかに人種差別的暴言をはいているシーンの瞬間に客席の観客達の顔を映すのだ。

リーの創作がこの現実世界で起きていることを綴っていることは明らかで彼は観客たちがその先の物語を引き継いていってくれることを願っている。このメタ構造の撮影方法は一見とてもシンプルではあるがここではかなりの効果を生んでいる。観客たちはさらに大きな物語の中に自然と織り込まれるのだ。映画のラストでは再度観客たちの劇場外での姿、笑い顔や家族と一緒の姿を映して終わる。そして貧困の様子、ハウジングプロジェクト、どこにでもあるような街角などを映しだし、今劇場で見たばかりの世界が実際の世界と近いのだと言うことを一人一人に感じさせる効果を生んでいるのだ。

Press Overは今の状況を想起させるが、同時に昔から綿々と続く白人上位の警官による暴力を思い起こさせる。主人公の二人は「プランテーション」の話をして、彼らがずっと見てきた人種差別について語る。「いつでも同じだよ、ただ日付が変わるだけで、起きていることはいつも同じ」とMosesは言う。

 

 

You may also like...

Top