Outside cafe at theatre

ロックダウン後の地方劇場の今

Auditorium in theatre
(c) Annie Gavin /Unsplush

英国北西部のかつては紡績で栄えた産業都市ボルトンにあるThe Octagon Theatre 。その名の通りメイン劇場はオクタゴン(八角系)の形状で客席が360度舞台スペースを取り囲む円形舞台を有するユニークな劇場で地域住民のための劇場として人々に愛されている。

50年余の歴史を持つその地方劇場が今のコロナでどのような状態になっているのか、The Guradian紙の記事からお伝えする。

オクタゴン劇場の芸術監督Lotte WakehamとCEOのRoddy GauldはCOVID-19対策として「ポジティブな現実主義 positive realism」を掲げた。

小説や絵画のマジック・リアリズム(超現実的な情景を克明な写実主義で描いた芸術表現)を—現代の現実世界にマジカルな要素を加えたもの—とするならばオクタゴン劇場のこのちょっとひねったポリシーはすで英国演劇界に3億3千万円の減収をもたらしている政府のロックダウン政策に対する緻密な検討姿勢ととるべきで、彼らは真に生き残りをかけているのだ。

「我々は是が非でも再開したいと願っていますが、一方でそれがいかに難しい事なのかをしっかりと認識しなければなりません」とGauldは話す。

ロックダウン時には数百万ポンド資金を投じたボルトン町再生プロジェクトの最先鋒としての役割を任され、改築を計画していたオクタゴン劇場はこの不測の事態により、その計画の一からの見直しを余儀なくされたのだ。

「制作費から劇場運営費まで全ての角度からコストの見直しをします。人員解雇も必要とあれば仕方ありません」とGauld。

その一方でWakehamは文化人、例えば以前劇場の受付で働いていた、今は世界を代表する映画監督であるDanny Boyle、そして幼少期に劇場へ通っていたという現RSCの芸術監督Gregory Doran、彼らからの厚い支援に感謝の辞を述べている。彼女はオクタゴン劇場と関わりのある(った)彼らのような有名人たちが劇場のことを口にしてくれるだけでもかなりの効力があると言う。なぜなら英国演劇界の劇場存続の話題はロンドン、またはその周辺の劇場にばかり注目が集まり地方劇場が蚊帳の外になっているからだ。

地方劇場は今、数々の難題を抱えていて、それはCOVID-19の影響だけではない。近年の報告によると国民一人当たりの芸術に関する公共資金援助の割り当ては2008年以降35%減り、地方自治体の芸術支援予算も43%減っているという。これにより地方の公共事業機関は政府からの資金援助が増えない限り、芸術分野で各方面での大幅な縮小は避けられないであろうとしている。

オクタゴン劇場の場合、ロックダウン後、一般への呼びかけにより3万8千ポンド(約500万円)のファンディングを得たが、もちろんそれでは足りない。他のほとんどの英国の芸術団体と同じようにオクタゴン劇場も2008年以降、公的助成金、地方自治体助成金、そして企業からの資金援助も大幅に減少していて、その分をチケット売り上げ、その他の物販などで賄っていた。(今は収入の70%が劇場の売り上げ(チケット・物販・飲食の売り上げなど)、30%が公的助成金だが約10年前はその割合は50 %,50%だった。)

劇場を改築し、車椅子のアクセス改良、cafeやトイレを増築しさらに多くの人たちの受け入れ準備を計画していた劇場。それにより、収入の割合を助成金から自らのビジネスによる売り上げにもっと比重をおこうとしていた矢先のコロナの流行だった。

「私たちは多くの事実が明らかになっていない状況で計画を練っていかなくてはならないのです。まるでパズルのピースがどこにあるのかわからないまま、大型のジグゾーパズルに挑んでいるようなものです」とGauldは政府の不明瞭な対応に不満を漏らした。

政府には劇場を安全に再開するまでのわかりやすいタイムライン、そして必要な人と人との距離についてもっと多くの情報を出して欲しいと話す。例えば、オクタゴン劇場も活用している自宅待機者への給与援助制度についても支給が保証されているのは10月までで、それ以降どうなるのかについては不明瞭、それも含め全てが曖昧だと感じていると劇場側は言う。

アーツカウンシルからの支援は9月末まで、そして前述の政府からの給与援助は10月末までとなっているため、11月以降の予定は全く予想がつかないと不安を募らせている。