On the bank of Thames in London

英国の芸術とパンデミック

Inside the Royal Opera House in London
(c) Gabriel Varaljay  

(The Guardian新聞より抜粋)

ロンドンテムズ南岸にあるサウスバンクセンター(ロイヤル・フェスティバル・ホール、クイーン・エリザベス・ホール、ヘイワード・ギャラリーからなる複合芸術施設)もCOVID-19の影響からののSOSを発信。

アートは国家に依存していて、市場でその存続の可否を図るべきなのに税金を吸い上げていると言う人が少ないながらまだいるらしい。一方で、ミュージアム、ギャラリー、音楽や演劇は公共の財産で裕福な人だけでなく、全ての人が享受出来るようにあるべきだとする意見に賛同する人が多くいるのも事実であろう。良質の国立博物館が英国の各地に点在していることがその点を示しているように。それらの施設は無料で、公共の領域の中心部として各都市の歴史を記録している。運営費用を公共で負担する代わりにその恩恵はみんなんで分け合うという考え方だ。

そうであるものの、実際には、アートの負担に関しては公的資金はあまり使われていないということをご存知だろうか。英国の文化関連団体ではそれぞれの総売上の中での公共資金の割合は年々減ってきている。2010年には保守・自民連立政権下でアーツカウンシルイングランドの予算30%削減され、保守党の緊縮財政方針により地方局の援助の道も絶たれた。結果、英国のパフォーミングアート団体は資金全体のわずか20〜30%を公共資金でまかない、その他大部分はチケットセールスでうめることとなった。

一方、ドイツではこの割合が逆転する。通常、芸術団体は70~80%の公共資金で運営されている。このところのロックダウンの解除、緩和傾向からヨーロッパの劇場は半分、へたをすれば3/4の客席を潰した状態で再開するといった方向に動き出している。その席数は最低限必要なボックスオフィスの売上額と関連してくるのだ。しかし、ロンドンのロイヤル・オペラハウスの場合はその割合が達成されるのは95%以上の稼働率がある場合に限られる。このように英国においては追加の資金援助が見込めない限りにおいてはパフォーマンス公演が戻ってくるのははるか遠い未来だと言えるだろう。芸術団体のよく言えば「大いに成功」した、また「自ら助成金から乳離する道を選んだ」とも言える現状況によって、英国芸術団体は他の海外の隣国よりもかなり厳しく、時間を要する出口への道のりを歩むことになったのだ。それもうまく回復出来れば、の条件付きで。

今は活動が停止している状態なので、劇場、他の会場などは蓄財していた資金をただ使い続けている状態なのだが、つい先日、ロンドンテムズ、サウスバンクセンター(ロイヤル・フェスティバル・ホール、クイーン・エリザベス・ホール、ヘイワード・ギャラリーからなる複合芸術施設)が存続の危機が迫っているとSOSを発した。

いくら素晴らしい音楽、オペラ、ダンスや演劇をオンラインで提供しても、それらの一部の視聴者が寄付を申し出たとしても、それらのデジタルコンテンツが従来のチケットセールスに取って代わる見込みはない。Spotifyなどの音楽配信サービスによる収益についてもあてにはならない。例えばヴァイオリニストのTasmin Littleによると6ヶ月間で500万人のストリーミング配信があったところで彼女の収入となるのは£12.34(約1,661円)だそうだ。

英国のパフォーミングアーツ業界で働く多くの人たちー例えば、デザイナー、技術職、演出家、歌手、俳優、ミュージシャンーはフリーランスだ。彼らの多くが現在働く場を失っていて、いつまた働けるようになるのかの目処も立っていない。多くの人たちは政府の救済制度にも引っかからないような状態だ。希望的観測から秋の劇場再開(以前のような形で)を見越しても、10月以降も彼らのような文化機関で働く人たちへの様々な救済措置は続けていくべきであろう。

政府の対応はとにかく遅いと言わざるを得ない。人気のスポーツ観戦(フットボールなど)、大勢が集うイベント、などに関しては政府内で度々話題に登っているようだが、アートに関しては皆無だ。Cultural Renewal Taskforce (文化再生専門調査委員会案)が劇場が閉鎖してから2ヶ月経った5月20日にやっと出された。もうこれ以上無駄な時間を費やすことは出来ない。政府がバラバラになっている英国の文化機関を統括し、適切な資金援助を迅速に行うことが「今」必要だ。