Queen’s Theatre クィーンズ・シアター

演劇人の声は英国演劇の崩壊を救えるか

Thatre Adverts

The Guardian紙より抜粋

政府が緊急の資金援助を決めなければ、世界の演劇を牽引してきた英国のパフォーミングアート界は本当に崩壊する瀬戸際にある、と98人の役者、劇作家、演出家、そして技術スタッフらの演劇関係者が連名で書面によって窮状を訴えている。

そこには女優のPhoebe Waller-Bridge、Sharon D Clarke、俳優のJames McAvoy, Wendell Pierce、Andrew Scott、劇作家のTom Stoppard、演出家のEmma Riceらの名前が。Rishi Sunak財務大臣、デジタル・文化・メディア・スポーツ省大臣Oliver Dowdenへあてた書状ではオックスフォード・エコノミクスによる—「COVID-19によるシャットダウンでアート界全体で40万の職がなくなり、1年で740億ポンド(約10兆円)の売上減収となる」—との予測を元にこれは「文化の大惨事」であると綴っている。

また「演劇は英国で最も素晴らしいサクセスストーリーの一つで、演劇、ミュージカル、オペラ、ダンス、どの分野においても世界きっての質を誇り、ブロードウェイから北京までどの会場をも満員にする作品でかなりの経済効果をあげてきた。。。。。しかしソーシャルディスタンスを厳守しての上演は難しく、年内中の劇場再開は難しいだろう」とも記している。

このような状況から彼らは政府が現在執行しているjob retention scheme (コロナにより会社で働けない人たちに月給の80%(最高で2,500ポンドまで)を支給するもの)を予定の10月末日終了の期限からその支給期間を伸ばして欲しい、そして新たな資金援助を立ち上げ、またフリーランスの人たちのためのパッケージも用意してほしい、と嘆願している。

2019年にアーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」で主役を演じ、オリヴィエ賞男優賞候補となったWendell Pierceは演劇はBlack Lives Matter運動にも深く関わっていると話す。

「アートは望むと望まざるに関わらず社会変化をもたらすための一つの行動(アクティビズム)である」と彼は言う。「法律が人々の行動を法令により禁じる一方で、アートは人々の心、考え、人間性をを変えることが出来るのです。アクティビズムとしてのアートは過去のためのものではありません。あなた方若い人たちが我々の世代に加わることが重要です。それにより、今日、真実を話すためにはっきりと声をあげることが出来るようになるのです。それが演劇の役割です。我々が我々の価値を宣言する公開討論の場を作り上げ、それを実行する、そのために演劇があるのです。」

また、「セールスマンの死」を演出した演出家Marianne Elliotは「本当に深刻に演劇界のことが心配です。多くの人たちがこの演劇という仕事に人生を捧げていますし、英国では多くの人が演劇を愛しています。遅すぎてしまう前に救わなければなりません。今、失ってしまったら、、取り戻すのにかなりの時間がかかるでしょう」と話す。

現段階で4つの劇場が再開は出来ないとしていて、多くの劇場が人員解雇を始めている。このままの状態が続けばクリスマスまでに3/4の劇場が予備資金が底をつくと話している。

ソーシャルディスタンスを保って上演する場合の経営モデルがないため事態は深刻だ。例えば2Mの距離をあけた場合は全体の20%ぐらいの稼働、1M半にした場合でも30~35%の稼働になると見込まれる。今のところ政府の一時待機制度(前述のjob retention scheme)のサラリー支給によりなんとか維持をしているが、それが8月以降に徐々にに減らされて、10月に支給が終わってしまうとどうなるかはわからない。さらに、その8月は年末の書き入れ時、劇場の大きな収入源であるパントマイム(クリスマスの家族向けのショー)をやるのかやらないのかを決めなくてはいけないギリギリの時期でもあるので、劇場はその決断も同時に迫られることになる。

多くの劇場が距離を保った状態のイベント、公演などの新しい案を打ち出しているものの、その多くが無料で、収入は見込めないのが現実だ。

前述のDowden(文化)大臣は先日「来週、演劇、コーラス、オーケストラからの代表と医療専門家、アドヴァイザーたちを集めてライブパフォーマンスの劇場を再開していくためのロードマップを作成していくことについて話し合う予定だ」と話した。

英国有数のプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュは彼が手がける「ハミルトン」「メリー・ポピンズ」「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」などのメガヒットミュージカルの現場で働く人たち対象に人員解雇に関する相談を始めたと明かした。「本当に心苦しい決断ですが、政府から何らかの金銭援助が出ない限り、赤字にしないためにはどうしようもないのです」と語った。

Dowdenは「我々の世界に誇る文化・芸術が崩壊していくのをただ見ているだけというつもりはありません。。」と話し、財務省とデリケートな交渉を続けている最中だとした。