View on Broadway in New York

歌うのが難しいミュージカル曲

Her Majesty's Theatre
The Her Majesty’s Theatre in London.

Evening Standard紙から抜粋

ハーネスで釣り上げられたままの姿勢で歌ったり、バック転も交えたハードなソロダンスの直後に歌ったりするのは異次元の難しさだろう。それでなくてもミュージカル舞台のように感情を込めて歌うのはそれだけで難しいのに。

更に言えば、スティーヴン・ソンドハイムの楽曲では秒単位で音節数が変わるし、アンドリュー・ロイド・ウェバーの楽曲では高音の連続だし。

我々はウェスト・エンドのヴォーカル・コーチであり、Mamma MiaやRock of Agesに出演していたNatalie Andreouの協力の元、最も難しいと思われるミュージカルの楽曲をいくつか選んでみた。

Wicked の「Defying Gravity」— 主人公エルファバの見せ場であるこの曲がミュージカルファンのカラオケで熱唱したい曲の一つであること間違いなし。「彼女はとても情熱的なキャラクターなので彼女の曲はどれも難しいと言えるわね。」とAndreou。「特にこの曲は彼女の人生の中でクライマックスな瞬間を捉えているので特別。数個のマイクを帽子に仕込んで、片手に魔法の箒を持って20フィート(約6M)の高さでこれを歌うのが容易ではないのは一目瞭然。」

特に名演だと言われているのがブロードウェイのオリジナルキャストIdina MenzelとロンドンでのRachel Tuckerのエルファバ。

Dreamgirls の「And I am Telling You (I’m Not Going)」— 2006年の映画版でJenifer Hudsonが見事に歌い上げたこの曲、舞台で数々の俳優が挑戦したがなかなか思い通りにはいかないようだ。Andreou曰く「軽妙なリフ(繰り返し)、巧みなディストーション、スリリングな盛り上がりといったゴスペルソングを歌う上で欠かせない技術が要求されるんです。」「感情の激しい熱量をずっとのせていくことがこの曲にリアリティを持たせるのに重要なんですが、まるでマラソン走のような、かなりタフな楽曲ですね。」

特に名演だと言われているのがロンドン版でのAmber Rileyと Marisha Wallace。

オペラ座の怪人 — 主人公クリスティーンはオペラ歌手という役なので実際にオペラを学んだ役者だけがこの役を演じられる。経験豊富なミュージカル俳優でもE6の音域をビブラートで歌い上げるのは難しいでしょう。

特に名演だと言われているのがロンドン版オリジナルキャストのSarah Brightman。

Companyの「(Not) Getting Married Today」— ソンドハイムの楽曲は本当に難しいものが多い。「11秒内で68単語を歌い終わらなければならないんです。かなり早口で歌わなければならない曲として歌うのが難しい曲の筆頭に挙げられています。クリアーな言い回しと正確なピッチに加え、それを成し遂げるための息継ぎ、そしてコメディタッチのタイミングのセンスが求められます」とAndreou。

特に名演だと言われているのが2019年Marianne Elliot演出版のJonathan Bailey、2011年のニューヨークフィルのコンサートで歌ったKatie Finneran。そしてギルドホール演劇学校の生徒で授業中にソンドハイムの前でこの曲を披露したJane Shaw。

Chessの「Pity the Child」— 高音で歌わなくてはならないのは女優だけではない。この「Pity the Child」では曲が進むにつれて音がどんどん上がっていき、最後の一行のまでそれが続くのだ。つまりただ高音を出すのではなくその高音をしばらく持続させなくてはならない体力が必要な曲。ソプラノ、もしくはコロラトゥーラの声楽家に向いているような難しい楽曲だ。

特に名演だと言われているのが2003年、Chessのコンサート舞台のAdam Pascal。

Billy Elliot の「Electricity」—かなりのスタミナが要求されるミュージカルを舞台で観るのは純粋にかなり楽しいもの。この「Electricity」はその点で最たるものの一つと言えるだろう。主人公ビリーが歌唱の途中で熱のこもったダンスを披露するのだ。「舞台上に一人、当然の事ながら観客の視線が全てビリーに注がれます。かなりのプレッシャーなはずです。それもおそらく彼らの初の主人公としての舞台なはずですから。」

特に名演だと言われているのが…全てのビリー俳優!

Candideの「Glitter and Be Gay」— レナード・バーンスタインのこのオペレッタ曲は複雑に入り組んだパッセージにあふれている。速いフレーズの中に粉飾施したいわゆるコロラトゥーラと言われるものだ。「約6分間に及ぶこのマラソンコロラトゥーラ曲ではソプラノは流れるようなレガート歌唱、高度な話法、そしてメリスマ的な震え声歌唱が要求されるんです。」

特に名演だと言われているのが2005年のコンサートでのKristin Chenoweth

Jesus Christ Superstarの「Gethsemane」—  「ジーザスを演じるというのはかなりの責任感を感じることでしょう。彼の運命を知るものとしてこの曲は純粋に彼の露わな感情を表現しなければなりません。ベルトの発声によってその必死さを、そしてファルセット発声でその危うさを表現しなくてならないのです。」とAndreouは分析する。

特に名演だと言われているのが90年代にウェストエンドでジーザスを演じたSteve Balsamo。

Evitaの「Rainbow High」— 「この曲自体は短いのですが、エヴァを演じること、それ自体が大仕事なんです。なぜならほとんどの時間彼女は舞台に居続けているから。」とAndreouは話す。「この曲で強烈なベルト発声を披露するだけでなく、この役の女優は多くの俳優とのやりとりを衣装を変えながらこなして、数々のキー変換までしなければならないのです。」

特に名演だと言われているのが1978年のオリジナルキャストElaine Paige。

Les Miserablesの「Bring Him Home」— 激しい曲調のグループ曲が多いレミゼラブルの中でこの曲はデリケートな部分と激しい部分が混合しているので巧みなコントロールが必要。「この曲は役者のファルセットが見せ場となります。」とAndreou。「繊細さとダイナミズムの緊張関係が重要です。かなり複雑な歌唱技術をマスターした上で、このとても感情的な歌を座ったままで歌わなければならないのです。これは難しいと言えます。」

特に名演だと言われているのがコンサートバージョンでのAlfie Boe。

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