英国演劇が抱えるクラス(社会階級)の問題

Meeting at table

(c) Matthew Henry/ Burst

The Guardian紙より抜粋

— 英国の演劇界を健全な状態に戻すためには、アーティスト、そして観客層がさらなる多様性を担保すること、そしてチケットを安価にすることが必要。

結局のところシアターは劇場でも、舞台装置でも小道具でもなく「人」なのだと思う。舞台を作る人、そして舞台に魅せられた人、そんな人たちが交わるものが演劇なのだろう。ロックダウンが終了した後に芝居、ミュージカルなどライブパフォーマンスが今後生き残るかどうかの最大の脅威は一旦アートから離れた人たちが戻って来ない事である。厳しい財布事情でチケットを買えない人たちが増え、文化がそのような人々のものでなくなってしまう事である。また、才能のある芸術家たち、特に社会的に貧しい、労働階級の芸術家たちがアート界にとどまれなくなることも考えられる。

通常時であればシアターは大いに利を生む産業であり、英国の中で最も成功している文化輸出産業である。でありながら、業界は常に多くの非正規雇用者という状態に悩まされてきた。華やかな業界でありながら、3/4ぐらいの労働者たちがフリーランスとして団体に属さず仕事ごとの契約でやっている。それゆえに、今回のコロナで政府が現在執行しているjob retention scheme (コロナにより会社で働けない人たちに月給の80%(最高で2,500ポンドまで)を支給するもの)にひっかからない人が多くいるのである。

現在、最も危惧する事の一つとして、近年少しずつ広がりつつあったinclusivityとdiversity(包含性と多様性)が多くの場面で元の状態に逆戻りしていってしまう事である。

その近年の多様性の例としてはNatasha Gordonの作品「Nine Night」が2018年に黒人女性劇作家として初めてウェストエンドでかかった事、そしてNational Theatreの50:50 gender representationプロジェクト (NTが2021年3月までに上演演目の50%を女性作家、女性演出家に委託し、全体として半々の男女比を目指すとしたもの)などが挙げられる。

戦後、1945年に打ち出された「芸術は全ての人のために」という力強い信念が当時の人々の安寧と社会の団結をもたらした。今後、シアター産業が持続すると仮定した際に、ラディカルで創造性に富んだ、望みが持てる方法がその再建に向けて取られるべきであるし、さらに幅広い社会へ向けたアクセスが保たれなければならない。

シアターにはクラス(社会階級)の問題が付き物だ。それを無視したり、腫れ物に触るように扱う風潮があるし、私自身その明らかにある苦悩と向き合ってきた。

あなたが生まれついた社会経済的なグループとあなたが経験した社会的剥奪のレベルが劇場へ行くか行かないかを決定づける最も決定的な要因であり、その業界で働くかどうかにも大いに関わってくる。国民の半分が劇場へ通い、その残り半分は訪れていない。さらにその劇場へ行かない人たちの中の半分は舞台で彼らに関わるストーリー、または彼らを代弁するようなストーリーが上演されていなければ行こうという気にはならないらしい。

この危機的状況にも弱いながら希望の光がさしているようだ。アートとソーシャルジャスティス(社会的正義)を掲げるCommon(https://commontheatre.co.uk/)による労働者階級のアーティストたちが対象の朝のミーティングなど、この隔離期間中に誰もが参加可能なZoomを使ったネットワークが立ち上がっていた。このような場で、いざ再建となった際にフリーランスの人たちの声を拾い上げることができる。

とは言え、多くのアート施設や劇場が集中しているイギリス南東部とその他の地域の文化の差は開くばかりで、小さな街の団体やツアー劇団などは倒産していし、近年の公立学校におけるアート教育の消滅は今後さらにアーティスト、そして演劇を鑑賞する人たちの数を減らしていくことになるのだろう。

そして最後に強調したい事はとにかくチケット代をもっと安くしてほしいと言う事だ。とにかく安く、、もちろんこの状況下で難しいことは承知しているが。

ここに住んでいる人、誰でもが通えるような芝居が提供できてこそ、演劇が現代の英国を言い表していると言えるのではないだろうか。

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